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短編
退屈で人は死にません
 退屈というものは病に似ている。彼の大悪魔達でさえそれから逃れられないと言うのだから相当だ。絶対安静だと口を酸っぱくして言われたグレンは未だベッドの上。傷は全て塞がっているが、体力が回復していない上に時折傷があった場所に違和感を感じる。だからこそ安静を言い渡されたのだと分かってはいるが、退屈で仕方がなかった。不謹慎だが、ある意味悪魔たちの最大の敵だというのも頷ける。兎に角することごないのだ。元々、じっとしているのが苦手なグレンである。まともに休暇など取った事がなかったから、趣味という趣味もない。いや、菓子店巡りは趣味ではあるのだが、どの道この状況で出歩けないのだから意味がないだろう。
 仕方なくハロルドが用意したらしい硝子瓶から飴を取り出して口へ放りこむ。普段ならつい噛んでしまうのだが、我慢して口の中で転がす事にした。
 ベッドの上では何も出来ない。生憎と小難しい本は好きではないし、報告はハロルドが行なってくれたため本当にする事がなかった。

「……暇過ぎて死にそうだ」

「数日前に死にかけた人が何言ってるの。退屈で人間は死なないから大丈夫。というか、グレンが暇って事は護衛のオレも暇なんだけど」

 やれやれと言わんばかりの表情を浮かべているのはハロルドで、ずっとグレンのそばについている。そう、グレンが当然暇ならば護衛である彼も同じ。ずっと自分のそばについているだけなのだから暇に違いない。途中まで本を読んでいた彼ではあるが、どうやらグレンがうるさいため読書を諦めたようだ。ベリアルは確かに警戒すべきだが、最早グレンには興味がないように思える。もっとも悪魔であるから心変わりする可能性だってあるのだが。

「じゃあポーカーでもするか?」

「賭けないしやらない。護衛が護衛対象とポーカーしてどうするの。一人でやってくれる?」

「一人でポーカーが出来るか……! それともなんだ、あれか。俺に一人で神経衰弱でもやれと? むなしすぎるだろ、おい」

 それならポーカーをと誘うが、即座に却下された。護衛だからは分かるのだが、見た目の割りにお堅いのがハロルドだ。そもそも一人でポーカーなんぞ出来ないし、神経衰弱など途中でテーブルをひっくり返したくなる。友達いない子じゃあるまいし、と突っ込みたくなるのも仕方がないというもの。

「はいはい。興奮しないの」

「あんたが興奮させてるんだろうーが!」

 仕方のない子供を宥めるように言われても困る。そもそも興奮させているのはハロルドだろうに。こいつには何を言っても無駄だ。そう痛感したグレンだった。



 了





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