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短編
いつか覚める夢だからこそ
 悪魔祓いである限り、『死』とは無縁ではいられない。切っても切れない、と言えばいいだろうか。それは見習いであるノルン達の未来でもある。もっとも、近くにいる異端審問官や悪魔祓いを見ていると、とてもそうは見えないのだが。日々悔いがないように生きる。それが彼ら(ハロルド達)のモットーなのかもしれない。とは言え、人間である限り、それは不可能に近い。何でも斜に構えてしまうのはノルンがひねくれているからだろうか。
 見習いであっても自由に使える休日は稀である。力の制御を始めとしてバクルスの調整など嫌になるくらい。この日は久々に四人全員の時間が空いたため、ノルンはシグフェルズ、ラケシス、クロトと共に街に出ていた。聖人の儀が終わって間もないため、シグフェルズには変装をしてもらっている。彼を知る者が見れば変装とも言えない変装だが。
 カフェで飲み物とサンドイッチを買い、郊外にある丘に向かう。ピクニックには少々時期が早い気もするが、今日ばかりは喧騒から離れたっていいだろう。丘からはシェイアードの街並みが見渡せる。

「わあ、凄い! 来て良かったね。わたし、あんまり外に出ないから知らなかった」

「私もよ。シグが教えてくれたの」

「ロヴァルと来たことがあるんだ」

 頬を撫でる風はまだ冷たい。二人とも休日に外出することも少ない上に、見て回るにしても精々街中だ。ノルンもシェイアードに住んで数年になるが、故郷ではないためそれほど詳しくは無い。シグフェルズのルームメイトでもあるロヴァルは休日になれば出掛けている。シグフェルズによると他にも色々と穴場を知っているらしい。

「たまには役に立つのね」

「そうだな。俺にも脳筋のイメージしかない」

 本音をぶつけてからはそうでもないが、ノルンからすれば苦手なタイプの部類に入る。ロヴァルは実技は得意だが、座学と魔術が苦手と典型的な肉体派だ。ノルンの言葉に珍しく同意したのはクロト。別段、仲が良い訳でもないだろうが、兎に角ロヴァルという少年は人懐っこい。どこか憎めないと言ってもいい。思った事をすぐに口に出す所は玉に瑕だが。

「今頃、くしゃみでもしてるんじゃないかな? それにしても二人とも容赦無いね。ロヴァルが泣くよ」

「意外と傷つきやすいですもんね、ロヴァル君」

「そうなの。じゃあ今度、腹いせにからかってあげようかしら?」

 二人によると、ロヴァルは傷つき易いらしい。全くもってそうは見えないが、人は見かけによらないということだろう。サンドイッチをつまみながら幾つか仕返しを考える。あのヘタレ、と心の中で毒づき、ロヴァルという人物を思う。
 ロヴァル・ブラント。シグフェルズの友人で底抜けに明るい少年。少し調子に乗る所があるが、基本的にお人よしで悪い人物ではないのだ。それはノルンも知っている。だからこそ余計に腹が立ったのだ。まだ根に持っているのかと呆れられそうだが、シグフェルズが聖人だと分かった時の彼の態度を思い出すとまだ腹が立つ。

「ノルン、何か怖いこと企んでない?」

「気のせいよ」

 ふふふ、と笑えば笑顔が怖いよと返された。勿論、本気で実行しようとは思っていない。彼が悩んでいた理由が分からない訳ではないし、シグフェルズを友人だと思っているのは知っている。彼だってまだ十七歳の少年だ。動じずにいろという方が酷なのだろう。ただノルンは目を逸らすのではなく、シグフェルズと正面から向き合って欲しかったのだ。

「ロヴァル、骨は拾ってあげるから……」

「きっとくしゃみでもしてますよ」

「アルレーゼは敵に回さない方がいい」

「今頃気付いたの?」

 こうして他愛のない話をするのは楽しい。非日常を目にしたからこそ、こうした日常が大切だと思う。退屈で平凡な日々こそが。無表情で呟くクロトを一瞥し、ノルンは不敵に笑った。ラケシスのためにも女は怖いのだと思い知らせなければ。
 幼馴染と笑い合うラケシスを見ていると、こちらも楽しくなって来るのだから不思議だ。出来るなら、何時間でもここでこうしていたい。そう考えていると何故か物悲しくなって俯いてしまう。すると不思議そうにシグフェルズにノルン、と名を呼ばれた。

「何でもないの。ただ幸せだなって思って」

「……そうだね。今、僕がここでこうしていられるのは、全部ノルンのお陰だよ。ありがとう」

「私の方こそ、シグのお陰で世界が広がったから」

 シェイアードの街並みを眺めながらシグフェルズも同意する。永遠にこのままではいられない。それは理解している。正式な悪魔祓いとなればいつ悪魔との戦いで命を落とすか分からないのだ。いつか終わってしまうと分かっているから、今この瞬間が尊いのだ。この先、どんな未来が待っていようと忘れはしないだろう。
 ありがとう、と微笑む少年はとても眩しくて、恥ずかしさから目を逸らしたくなる。もう自分は何もしていないとは言うまい。彼を助けたくて、死なせたくなくてこの手を伸ばしたのは本当だから。


 了



 大っ変長らくお待たせしました!もう本当にとんでもなくお待たせしてしまい、まことに申し訳ありません!
 誓約の翼より、ノルン、シグ、ラケシス、クロトの四人でほのぼの、ワイワイという事でしたが、いかがでしたでしょうか?
 無駄に長い上に落ちがないという、お待たせしたのに出来がいまいちで重ね重ね申し訳ありません。四人とも、もうお前ら爆発しろと言われても仕方がないですね^^;
 水風鈴さま、リクエストありがとうございました!





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