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短編
瞳に映るもの
 聖衣姿も勿論、神秘的で目を引くのだが、私服姿も可愛いと思う。やはり聖衣の時は無意識に気を張っているからだろうか。今のノルンはとても生き生きしているように見える。
 ふわふわとして白いコートに淡い紫のスカートとクリーム色のブーツ。紫掛かった銀の髪にはシグフェルズが贈った瑠璃色のリボンが結ばれていた。
 年末と言うことで人は多いが、そちらの方がいいだろう。シグフェルズが儀式を行なったばかりの聖人とは皆気づかないはず。
 シグフェルズも聖衣ではなく、ノルンと同じ私服姿。ファーつきのコートにジーンズ、眼鏡まで掛けている。

「人が多い……」

「大丈夫?」

「平気。慣れないから落ち着かないだけ」

 通りを歩いていたノルンは、疲れたようにため息をつく。通りは人で埋め尽くされており、慣れない者ならば疲れてしまうだろう。
 尋ねれば、ノルンはすぐに大丈夫だと頷いた。彼女はきっと、気付いていないのだろう。自分がどれだけ見られているか。

 やや疲れたような顔でさえ、ノルンの美しさを損なうことはない。艶やかな銀の髪、長い睫毛に縁取られた瞳は瑠璃のように鮮やかだ。きめ細かな肌は雪のよう。どんなに人が多くても目に入る。純真な雪の妖精のようでいて、でも彼女は生身の人間だ。

「どうかしたの?」

「ノルンは綺麗だなって思って」

「な、何言ってるの!」

 頬を赤く染めるノルンは愛らしくて、ついからかってしまいそうになる。
 シグフェルズ自身も人目を引く容姿だとは理解しているが、何とも思わない。
 誰かがノルンに向ける瞳には様々な感情が宿っているのだろう。聖人は家庭を持つ者は少ないが、それでも零ではない。現にアルノルドがそうだった。そんな意味ではシグフェルズ以外の者には誰だって可能性があるのだ。聖人同士で付き合いのあったものなどいないから。
 学園の制服を着たノルンを見て、抱いた時の感情に似ている。

 あの時は咎の烙印が負の感情を増幅させていたのだろうが、烙印が消えた今でも胸を焦がすものがあった。それはきっと、嫉妬という名の醜い炎。
 望んだはずの力がシグフェルズを妨げる。彼女はいつか、自分以外の誰かを選ぶのだろうか。ノルンと出会わなければ知らなかった、そして抱かなかったであろう感情。

 シグフェルズは艷かな笑みを浮かべて、隣を歩くノルンの手を取った。彼女には、はぐれないように、と言って。
 ある意味では見せつけるように。彼女に近付く者は許さない、と。いつかノルンに言ったように、シグフェルズはそれほど優しくはない。僕を見て、そう言えたらどんなにいいだろう。
 だけど、彼女を困らせたくない。だからほんの少しだけ、繋いだ手に力を込めた。

「シグ?」

「何でもないよ」

 何でもないと言って指を絡める。これくらいは許されていいだろう。ノルンの頬が更に赤く染まる。ともすれば振り回されてしまう感情。彼女に悟られないよう、奥深くに封じ込めた。
 これから先のことは分からない。だが、ノルンは自分の隣にいる。今はそれで十分ではないか。いつの日か彼女の瞳に映る者が自分であることを願って、シグフェルズは微笑んだ。





 後書き

 大変お待たせしてすみませんでした!場面的には二人が年末に街に出た時です。本編中では書きませんでしたが、こんなことがあったよ、的なものだと思っていただければありがたいです。
 最後になりましたが、まりお様、リクエストありがとうございました!





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