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‐019‐

 長かった夢から覚めると、7時半。
 慌てて制服に着替えてローブを羽織って。朝食昼食を準備し冷蔵庫の中身を確認し、トランクを引っ張ってホグズミード駅から発車寸前のホグワーツ特急に滑り込んだのはつい先ほど。

『せーんろはつっづくーよー♪どーこまーでーもー…線路は無くても野を越え山越え…』

――魔法すげぇ…

 20倍速早送りのごとくビュンビュン後ろへ吹っ飛んでいく野山に、何時ぞやのトロッコを思い出す。
 生徒たちが乗っていないため本来の二倍以上の速度で進む紅い列車はかなり揺れるが、あんな寝た気のしない睡眠の後では、結悟には忍び寄る睡魔と闘う術は無かった。
魔法学校隠密乱入記 ‐019‐




 ゆさゆさ、と揺すられている。

――誰に?

 漠然とそう思った結悟だが、次の瞬間には完全に覚醒せざるを得なくなった。

『起きねぇと頭潰すぜ?』

 という、物騒極まりない男の声によって。
『起きます起きます起きてます!!』

 瞬間にして目を開けば、そこには黒に近い灰色の竜が。頭に感じる圧迫感は十中八九この竜の右手(前足?)だろう。

――なんだ、コレ…?

 そんな状況にしばし頭がついていかなかった結悟だが、その竜の眼が煌めく牡丹色であることに気付く。

『瑞月…?』

 呟けば頭の圧迫感は消え、牡丹色が満足げに細められた。

――“影に従い”って、こういうことか。

 瑞月が自分の足元の影から出てきているのを見て納得する結悟。

『お前ぐっすりだったなぁ…んなに寝心地良かったかよ?』

『いや、寝心地は微妙……あんな夢見て寝た気しなかったから…』

 くあ、と隠しもせず欠伸し、体を伸ばす。かなり無理な体勢をしていたのか、体のあちらこちらからもはや折れているんじゃないかと思うくらいバキバキと音がした。

『…あ、アレ夢じゃねぇよ。』

『…は?』

『なんつーの?精神世界での会話みてーな?』

『精神世界…そりゃ…疲れるわなぁ…』

 がしがしと髪をかき混ぜつつ、時計を確認。針が示すのはだいたい10時。
 ずいぶん寝ていたものだと思うが、精神世界での会話とはつまり脳の一部分だけを酷使したと言う事なのだから相応の休息をとったと考えるのが妥当だろう。

『一旦外出るわ。
 …瑞月、ここ取っとける?』

『お前がオレにそれを望むならな。』

 するり、結悟の影から尾まで完全に出たかと思えば、次の瞬間には色が戻り、人型(角無し)を取った瑞月がシート一杯にふんぞり返って座っていた。

『おま…セリフと態度が合ってねぇよ…』

 そんな瑞月に呆れながら、MDプレイヤーと時計だけ持って結悟はコンパートメントを出、ホームに降り立つ。さすがに発車一時間前とあって人影は無い。
 だだっ広いプラットホームに、微かに蒸気を漂わせている紅の汽車。つい先ほどまで乗っていたにもかかわらず、こんなものが本当に宙を走るかと思ってしまうほどにその車体は長く続いている。
 その最後尾から先頭まで、意味もなく歩いてたどってみた。因みに結悟が確保したコンパートメントは一番後ろだ。


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