‐014‐
緑色の煙の先に見えたのは、目も眩むほどの硬貨。
――う、っわ…なにこれ。
むしろ引いてしまう程の金貨銀貨銅貨…こんな大金、一生に一度見るか見ないかだろう、そう思った結悟だったが。
魔法学校隠密乱入記 ‐013‐
「うわー…なにコレー…」
目の前にある、最早山としか言いようのない金銀銅に茫然と立ち尽くす。
――ホントどんだけ稼いだんだ、おじいちゃん…
そう、ここは祖父の金庫。ポッター家の金庫よりも大きな金庫に案内された時はもしやと思ったのだが、まさかこんな大金が拝める日が来ようとは。
山を崩さないようにそっと、出来るだけそっと鞄に硬貨を詰め、金庫を出た。
――なんか、まだ目がチカチカする…
目頭を押さえていると、ハグリッドがグリップフックに言っているのが聞こえた。
「次は713番金庫を頼む。ところでもうちーっとゆっくり行けんか?」
「速度は一定となっております。」
返って来たのはにべもない返答だった。
そうして、またトロッコが走り出す。更に深くへ、更に速く…
――速度一定じゃなかったの?!
そんな結悟の思いも振り払うほどのスピードで進むトロッコ。気がつけば地下渓谷の上を走っていた。
ハリーが無謀にも身を乗り出したのを視界の端に捕らえた結悟は反射的に彼の襟首をつかんで引っ張った。
「さっき言ったばっかだろ!!死ぬ気?!」
その後は驚くほど静かだった。
ほどなくして713番金庫に着く。そこに鍵穴は無かった。
「下がってください。」
グリップフックが勿体付けたようにいい、その長い指で扉をそっとなでると、それはたちまち融けるようにして消え去った。
「グリンゴッツの子鬼以外の者がこれをやりますと、扉に吸い込まれて、中に閉じ込められてしまいます。」
「中に誰か閉じ込められていないかどうか、時々調べるの?」
問うたハリーに、グリップフックはニヤリと笑って、
「十年に一度くらいでございます。」
そう言った。
――この中に、賢者の石が…
期待したような目で金庫を覗き込むハリーの後ろから、結悟も中を窺う。ぱっと見ただけでは何もないように見えたが、そこには確かに賢者の石があった。
もっとも、茶色の紙に包まれているそれがまさか賢者の石だとは、このがっかりしたような顔の好奇心に溢れる少年は思いもしていないだろうが。
「行くぞ。地獄のトロッコへ。帰り道は話しかけんでくれよ。俺は口を閉じているのが一番よさそうだからな。」
見ているこっちまで気分が悪くなりそうなほど真っ青な顔でハグリッドが言った。
そうしてまたあの、そこいらのジェットコースターも真っ青なトロッコに振り回され。陽の光に目を瞬かせながら外に出た。
「制服を買った方がいいな。」
そう言ってハグリッドはマダムマルキンの洋服店を顎で指した。
「あー、そうだけど…ハグリッド、ちょっと休んで来たら?まだ顔真っ青だし。」
「そうか…?じゃあ、『漏れ鍋』でちょっとだけ元気薬をひっかけてきてもいいかな?」
そう言うや否や、ハグリッドは雑踏の中へまぎれて行った。
「…途中で倒れないと良いけど。じゃあ行こうか、ポッター。」
そう言って結悟は歩き出す。が、ハリーは付いて来ない。
「…ポッター?」
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