‐013‐
アーチを潜り抜けたそこは、もうロンドンとは全くかけ離れていた。そこは魔法の世界、まさにその一言がぴったりとあてはまる、摩訶不思議な空間だった。
魔法学校隠密乱入記 ‐013‐
店の外に積み上げられ、日の光にきらきらと輝いている大鍋。思わず立ち止まって見ると、看板には“鍋屋―大小いろいろあります―銅、真鍮、錫、銀―自動かき混ぜ鍋―折り畳み式”の文字。
――折り畳み式大鍋って…どう折り畳むんだ?
「一つ買わにゃならんが、まずは金をとってこんとな。」
ハグリッドはそう言ってまた歩き出す。おそらくはグリンゴッツに向かっているのだろう。
ふと隣りを見れば、ハリーがまるで何一つとして見逃すまいとでもいうようにあっちへこっちへと視線を飛ばしていた。
そんな姿に少々微笑ましさを感じる結悟。
――目ぇ良くてよかった…。
まっすぐ前を見ていれば、大体の物が見えるのだ。様々な店、様々な商品、様々な買い物客…。
薬問屋の前で値段について愚痴をこぼす小太りのおばさん、薄暗い店からは梟の鳴き声が聞こえる。看板を見やればイーロップの梟百貨店とのこと。
ハリーと同じ年の頃の男の子たちがショーウィンドウにべったりと張り付いて何かを眺めている。“ニンバス”という言葉がかろうじて聞こえてきたから、きっと箒が飾ってあるのだろう。
他にも、マントの店、望遠鏡を売っている店、ダンブルドアの部屋で見たような銀の道具が売られている店もあった。
大きな樽が幾つも積み上げられているショーウィンドウ、どうやって積み上げたのかと思うような本の山、そういえば今まで一度も使っていない羽ペンや羊皮紙、大小形も様々な薬瓶、思わず見惚れてしまうほど精巧な月球儀、そして…
「グリンゴッツだ。」
そう言ってハグリッドが立ち止まる。
このダイアゴン横丁にあって、圧倒的な存在感を示す高く白い建物。
曇りひとつなく磨き上げられたブロンズの観音開きの扉の両脇には、真紅と金の制服を着て立っている背の低い生き物。
「さよう、あれが子鬼だ。」
――なんか、もう、頭がついて行かない…
再び歩き出したハグリッドについて歩きつつ、それでも辺りを見渡す。子鬼の間を通って入り口をくぐると銀の扉が。
そこに綴られているのは、金の欲に目が眩んだ愚か者への警告。
「言ったろうが。ここから盗もうなんて、狂気の沙汰だわい。」
また左右に立つ子鬼がお辞儀し、三人はいよいよ中に入った。見渡す限り大理石の広い広いホール。
数える気も起きないくらい多くの子鬼が、細長いカウンターの向こうで帳簿を付けたり、秤でコインを計っていたり、宝石を視ていたりとせわしなく働いている。
ホールから続く扉はもはや無数と言ってもいいくらいあって、やはり無数の子鬼たちが人々を案内していた。
そんな様子を傍目に、三人はカウンターに近づく。
「おはよう。」
ハグリッドが手の空いている子鬼に声を掛けた。
「ハリー・ポッターさんとユイゴ・スエヒロさんの金庫から金を取りに来たんだが。」
――なんか、堂々とした強盗みたいに聞こえる…
ふと、ハグリッドに対してそう思った結悟だった。
「鍵はお持ちでいらっしゃいますか?」
「どっかにあるはずだが。」
言いつつハグリッドはポケットをひっくり返し、中身をカウンターに出し始める。
――四次元ポケット?!
結悟がそう思うのも無理は無かった。カビの生えたような犬用ビスケットを皮切りに、いったいどこにどうやって入っていたのかと思うほどのモノが出て来たのだ。
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