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短編3
鳥籠
 私は昔、一羽の鳥を飼っていた。
 小さな鳥籠で、毎日餌を与えて。
 けれど。
 いつの日か、私は空の鳥籠を納戸へしまっていた。
 どうして鳥がいなくなったのかは覚えていない。
 逃げてしまったのか。
 逃がしたのか。
 それとも、死んでしまったのか。
 ただ覚えているのは、鳥籠を片付けたということ。
 納戸の隅の、奥の方へ。
 それから私がその鳥籠を目にすることはなく。
 ふと思い出して探しても、気がついたら納戸から鳥籠は消えていて。
 ああ、誰かが捨てたのだろうと。
 そう、思っていた。


「こんにちは。」
「こんにちは。お姉さん。」

 ある日私は声を掛けられて。
 そこには小さな鳥籠を手にした、小さな女の子が立っていた。

「こんにちは。」
「お姉さん。」

 見たことのない少女だ、と、思った。
 少なくとも覚えてはいない。
 知り合いにも、この年頃の少女に思い当たる節はない。
 けれど、お姉さん、が、私の事を指しているのだろうと察した私は、腰を屈めて目線を少女へと合わせた。

「こんにちは。」
「お嬢ちゃん、お姉さんになにか用かな?」

 少女は少しだけ悲しそうな顔をして、手に持っていた鳥籠を私へと差し出した。
 小さな鳥籠。
 けれど、小さな少女の手の中にあるそれは、実際よりも少しだけ大きく感じた。

「お姉さん。」
「これを、返しにきたの。」

 少女の手から、小さな鳥籠が私の手へと移る。
 私の手の中の鳥籠は、少しだけ小さく感じた。

「ずっとずっと、長い間、借りていたけれど。」
「もう、大丈夫。」

 少女は空になった手を振って。
 軽々と駆けて、少しだけ私たちに距離が出来る。
 手を伸ばして届かない距離。
 一歩二歩、足を進めないと届かない空白。

「ありがとう。お姉さん。」
「今までずっと、守ってくれて。」

 輝くように微笑んだ少女。
 その微笑みを目にした時、私は一瞬全てを忘れた。
 手の中の小さな鳥籠のことも。

「おかげで、私は飛べる。」

 少女は鳥となって彼方へと消えた。

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