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プリンセス・ジャック


「いくら女として育てられたからって、いつでもどこでもかしこまってられっかっての」
 頬杖をつきながら、左手をヒラヒラさせるジュリア。
「……でも、私もさっきの笑い方はどうかと思うよ? キヒャヒャヒャとか」
 マーヤが言う。
「そうは言うけど、ほんとは俺、王女なんかじゃないし……」
「いや、王女としてじゃなくて人間として。
 ちょっとひいちゃうよ」
 その言葉はグサリとジュリアに突き刺さった。
「人間として!? ……反省するよ」

 その後、エミリアは部屋を出ていった。忙しい彼女は常にジュリアの側にいるわけではないのだ。
 それからもマーヤとジュリアのたわいもない会話が続いた。

「だけど、本当に面白かった。
 多分こうだな。
 人目もあるし、『麗しき妹君』を本気で倒すのも気がひける。だけど手加減すると負ける。
 ……とか考えてるうちに、マーヤに素手で止められちゃって、結果的に恥をかくはめに」
 『麗しき妹君』のところで皮肉めいた響きをこめながら、ジュリアは言う。それは自分に対する皮肉であり、自分の本性に気付かない者達に対するものでもあるのだろう。

「あの、それ半分、当たりで半分ハズレだよ。きっと」
 おどおどしながら反論するマーヤにジュリアはきく。
「え? どういう意味?」
「えーと」
 マーヤは言葉を選びつつこう告げた。
「ロエルさんが気にしてたのはエミリアだよ」
「へ?」
「好きな人に妹を倒すところなんて見られたくないし、負けるとこも見られたくないでしょ?」
「まず、兄さんがエミリアの事が好きだってことに驚きだし、マーヤがそれを知ってたのにびっくりだ」
 ジュリアから見ている限りはそんな様子は無かったし、噂もきかなかった。
「知ってたって言うか、なんとなく見てたら分かったんだよ」
 ……マーヤは、普段はマイペースなのに妙に聡いからなぁ。
「あれ? でも兄さんは知ってなかった? ……エミリアが、俺は男だって知ってるって事」
「こういうのって理屈じゃないよ」
「なるほど。
 兄さんらしいけど。自分の恋心にも疎いからなぁ。
 これは俺が『応援』してあげないと」
 そこでジュリアはニヤリと笑った。黒い、あくどい笑みだ。
 ジュリアの本性を知らない者がこの笑みをみたらどう考えるか、想像に容易い。
 マーヤはその笑みを見て思いついたことを述べてみる。
「……人の恋路を邪魔する奴は馬に喰われて死んでしまえっていうよね」
「残念。馬は草食だ。
 ていうか微妙に間違ってる」



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