プリンセス・ジャック
6
「いくら女として育てられたからって、いつでもどこでもかしこまってられっかっての」
頬杖をつきながら、左手をヒラヒラさせるジュリア。
「……でも、私もさっきの笑い方はどうかと思うよ? キヒャヒャヒャとか」
マーヤが言う。
「そうは言うけど、ほんとは俺、王女なんかじゃないし……」
「いや、王女としてじゃなくて人間として。
ちょっとひいちゃうよ」
その言葉はグサリとジュリアに突き刺さった。
「人間として!? ……反省するよ」
その後、エミリアは部屋を出ていった。忙しい彼女は常にジュリアの側にいるわけではないのだ。
それからもマーヤとジュリアのたわいもない会話が続いた。
「だけど、本当に面白かった。
多分こうだな。
人目もあるし、『麗しき妹君』を本気で倒すのも気がひける。だけど手加減すると負ける。
……とか考えてるうちに、マーヤに素手で止められちゃって、結果的に恥をかくはめに」
『麗しき妹君』のところで皮肉めいた響きをこめながら、ジュリアは言う。それは自分に対する皮肉であり、自分の本性に気付かない者達に対するものでもあるのだろう。
「あの、それ半分、当たりで半分ハズレだよ。きっと」
おどおどしながら反論するマーヤにジュリアはきく。
「え? どういう意味?」
「えーと」
マーヤは言葉を選びつつこう告げた。
「ロエルさんが気にしてたのはエミリアだよ」
「へ?」
「好きな人に妹を倒すところなんて見られたくないし、負けるとこも見られたくないでしょ?」
「まず、兄さんがエミリアの事が好きだってことに驚きだし、マーヤがそれを知ってたのにびっくりだ」
ジュリアから見ている限りはそんな様子は無かったし、噂もきかなかった。
「知ってたって言うか、なんとなく見てたら分かったんだよ」
……マーヤは、普段はマイペースなのに妙に聡いからなぁ。
「あれ? でも兄さんは知ってなかった? ……エミリアが、俺は男だって知ってるって事」
「こういうのって理屈じゃないよ」
「なるほど。
兄さんらしいけど。自分の恋心にも疎いからなぁ。
これは俺が『応援』してあげないと」
そこでジュリアはニヤリと笑った。黒い、あくどい笑みだ。
ジュリアの本性を知らない者がこの笑みをみたらどう考えるか、想像に容易い。
マーヤはその笑みを見て思いついたことを述べてみる。
「……人の恋路を邪魔する奴は馬に喰われて死んでしまえっていうよね」
「残念。馬は草食だ。
ていうか微妙に間違ってる」
[*back][#next]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!