プリンセス・ジャック 10 言いかけた時、今まで人通りのなかった渡り廊下を一つの影が通った。 ただ人が通っただけならマーヤも気にしなかっただろう。 問題なのはその人物と様子。 「……エミリアさん?」 それも普通の様子ではない。 覚束ない足どりで、口元を手で押さえている。さして暑くもないのに、額には不思議な汗が浮かんでいる。 マーヤは思わず壁にもたれるのをやめた。 ……『あの』エミリアさんに何が? 胸騒ぎがして、じっとしていられない。 シャムリーには一度、背を向けてエミリアの様子を見にいこうとしたとき―― 背後からの殺気。 反射的に身をよじらせたが、避けきれなかった。 細身の剣がマーヤの腹部を掠る。 「……え?」 とぼけた声だけで、叫ぶ間もなく倒れる。 最後に彼女がみたのは剣を抜いたシャムリーと、自らの鮮血だった。 腹を伝い小さな水溜まりを作る彼女の血を、まるで気にせずシャムリーはその場を立ち去った。 マーヤの言葉など、耳を貸さずに。 episode4 END To be continued…… [*back] [戻る] |