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プリンセス・ジャック


 最初に攻撃を仕掛けたのはジュリアだった。
 さっきまでの優雅な振る舞いとはうって変わり、機敏な動きで間合いをつめ、きりつける。
 ロエルがそれを避けるとジュリアは素早く防御体制に入る。
 一度距離をとったあと、次はロエルから攻めにでて――
 そんな間一髪の攻防が何度繰り返されただろう。
 周りの者は圧倒され、あちこちで感嘆の声があがっていた。
 次期国王とその妹の戦い――いま逃したら二度と見れないであろうそれに、皆目が離せない。
「すごい……ジュリア様あんなに強かったんですね」
 青年も審判を任されたことも忘れ、ただ見入っていた。
「そうだけど」
 そういったのはマーヤ。彼女は驚きも感心もせず、困ったような表情を浮かべていた。
「二人とも最初のほうは手加減してたんです」
「あれで……!?」
 ……とてもそうは見えなかった。
「やっぱり、ロエル様は妹君相手でやりにくいんでしょうか?」
「多分そう。でも二人とも熱くなってきて、だんだん本気になってきてる。特にロエルさんのほうは」
 マーヤに言われ、青年も気づく。
 二人の攻撃は徐々にだが速く、力の入ったものとなり、それを避けるのもよりギリギリになっていっていた。
「でも駄目だよ……」
「へ?」
 青年がきき返した時には、既にマーヤが動いていた。



「……これで終りだ」
 ロエルはジュリアに大きく剣をふりかぶる。
「……やれるものなら」
 ジュリアのほうも、あえてそれを避けるのではなく、自らも剣を強く握り、向かい討とうとする。

 これを決めたほうが勝者となるであろう、まさにその時――

 ジュリアの剣ともロエルの剣ともちがう、一本の銀の光が輝いた。

 マーヤだった。
 右手は大剣でジュリアの剣を受け止め、左手は――驚くことに素手でロエルの剣を止めていた。
 常軌を逸した行動だ。あんなに激しく戦いをこんなにあっさりと、鮮やかに止めてしまったのだ。
 普通ならあの二人の間に割り込むことも難しいし、もしそれが出来ても両方からのまともに攻撃を受けてしまうだろう。
 だがマーヤに傷はない。
 練習用とはいえ、あれだけ速い剣を受け止めたのだから、左手など骨が折れても仕方がなさそうなものだが血一滴流れていない。
 皆、動きが凍りつき、驚きで声もでない。
 特にロエルはまさに、あいた口が塞がらない状態だった。
 そんな静寂を打ち破ったのは、静寂を作った張本人だった。
「駄目、ですよ? ロエルさんもジュリア……さんも。
 兄弟喧嘩はよくないです。
 剣を使って、なんてもっと良くないです」
「……兄弟喧嘩なんて。ただの模擬試合ですよ」
 そう、ジュリアはすこし眉をひそめる。
「そんなことないです。
 二人とも試合に勝つことじゃなくて、相手を倒すことが目的になってる。
 これ、喧嘩です。駄目です。兄弟は仲良くないと」
「……マーヤ、喧嘩なんかじゃなく、」
「駄目なんです!」
 そう言い張り、マーヤは譲らない。
 剣を交えたまま、見つめあうジュリア、マーヤ。
 先に折れたのは――ジュリアだった。
「全く……マーヤには敵いません。
 確かに私も熱くなり過ぎてましたね。
 むしろ止めたことに感謝したいぐらいです。
 ……私に剣をむけたことも、おとがめは無しにしましょう。」
 と、剣をひく。そして、
「ロエルお兄様も、それでいいですよね?」
 口をあけたまま、呆然としていた兄に言う。
「……へ? あ、ああ……」
 それは次期国王とは思えないほど、間抜けた声だった。
「お騒がせ致しました。
 では、私はこれで失礼します。
 ……エミリア、マーヤ。部屋に戻りましょう」
 ざわめきを戻した、見物人達は三人の背中を見送った。




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あきゅろす。
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