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プリンセス・ジャック

「お兄様ー!」
 黄色い声をあげる彼女をみて思った。
 ……これは本当の彼女ではない。あんなのは本当の彼女ではない。違う違う――
 クロードが心の中で呪文のように唱えるのをよそに、ミルシーは梯子を持ってきた。どうやらまた、これで部屋の中を見るらしい。
 ミルシーがそんな怪しい行為を繰り返すのはクロードも複雑な心境だ。
 だがミルシーはそんなクロードの心を露知らず。
「クロード! 梯子が安定しませんので下で押さえていてくださいまし」
 嬉しそうな表情。それは自分に向けられたものでないと分かりつつも、心臓の鼓動は速くなる。
 だがそんなクロードのささやかな幸福の時間はすぐ終わる。ミルシーは身を翻し、梯子に手をかけた。
 彼女の頼みなら断れない。仕方なく、クロードも梯子を押さえることにする。

 その時、クロードは世界がひっくり返るような重大な事に気がついた。
 それはつまり。

 今自分の頭上には、膝上の丈のスカートのミルシーがいるという事だ。

 少年の脳内を雷が走り抜ける。
 ……つまりこれは……ミルシーちゃんに男として見られてない? いやいやこれは彼女の信頼の証であり……違う違う! 自分は彼女に対してやましい思いを抱いたことなど一度もない!! そうだ自分の彼女に対する思いはもっと崇高なものであり、であるからして……でも、彼女はその、魅力的な女性であることは疑いようもない事実で、だから、き、興味が無い訳ではないから、たまたま上を向いてしまう、という『事故』はおこりうることで、少しぐらいならバレな……そうじゃないだろ! これは自らの心のあり方のモンダイデアリ……
 少年の欲望と理性のせめぎ合い。他者からみればなんとも些細で青臭い悩みだが、彼の脳内で巻き起こされたその葛藤は、かつて大きな惨禍を引き起こした大陸戦争よりも激しいものであった。
 だが結局は結論は出せずにいたところ。


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あきゅろす。
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