プリンセス・ジャック
15
「えと、失礼にきこえたらゴメンなさい。でも、ジュリア……様とは昔一度会ったきりなんですよね?
それなのにどうして……」
ああ、と一言呟くと、マーヤの言いたい事を理解したミルシーは微笑んだ。
「……四年前、わたくしが初めてお父様、お母様、ロエルお兄様。そしてジュリアお姉様にあった時ですの」
懐かしそうに目を細め、ミルシーは自らの過去を語りだす。
「それまで家族との記憶が無かったわたくしは、初めての『家族』に本当に期待してましたの。実際、お母様もロエルお兄様もわたくしを普通の娘として、妹として接して下さいました。
でも――
それでも、『壁』を感じてしまったんです。
血の繋がりはあっても今日はじめて会ったばかりの『家族』と、生まれて今日まで苦しみと喜びを分け合ってきた『家族』。
そこには見えないけれど大きな『壁』が、ある」
マーヤは黙って聞いている。家族のいない彼女には、少し想像しにくい話だったが、ミルシーの気持ちは理解できた。
ミルシーは輝くような笑顔に表情をかえた。
「けれども! ジュリアお姉様からはそんな壁を感じませんでしたの。
ジュリアお姉様はわたくしのことを特別に感じてくれているような……そんな気がしましたの。
だからわたくしは、素敵なお姉様に追いつけるよう、武術も頑張りましたのよ? まだまだ力不足ですけど……」
槍を見つめ苦笑する彼女。
その様子からは、いかにミルシーがジュリアを純粋に想い続けているか、マーヤにもよく分かった。
……でも。ジュリアにとっては、違う。
ジュリアの誰よりも側にいるマーヤだからこそ分かってしまう。
……きっと、ジュリアは自分と彼女を重ね合わせただけ。
王族に生まれてしまったが故に、女として育てられた自分と、家族の離れ山奥で暮らさなければいけなかったミルシー。
ジュリアは兄に対してとは違う思いを抱いただろう。『同じだ』と。
個人にというよりは、彼女の立場にジュリアは親しみを感じた。
ミルシーの『特別に感じてくれている』は、ジュリアにとってきっとその程度のものなのだ。
切ないな、と思う。
二人の思いはまったく噛み合っていない。
彼等自身がそれに気がついていないのも、なんともいえない切なさを、マーヤは感じた。
「離れてても確かに家族なのに」
ジュリアがロエルと向き合えたように、ミルシーともきちんと向き合えるはず。
そしてマーヤは決意する。
「実は、ミルシー様にジュリアのことで話したいことがあって……」
こうなったら、力ずくでも二人に向かい合ってもらおう、と。
様子に気づいたジュリアはこちらに駆け寄ろうとするが、それよりさきに――
ジュリアの制止は間に合わず、彼の最大の秘密はミルシーに打ち明けられた。
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