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プリンセス・ジャック
12
 作戦三。
「こうなったら剣を交えるしかない!」
「いや、意味が分からないよ」
 自室に戻ったジュリアはそう決意する。マーヤは呆れ顔だ。
「つまりはこういうことだ」
 ジュリアは扉まで歩みよると、勢いよく扉を開いた。
 そこには――やっぱりというか、なんというかミルシーがいた。扉は厚いので室内の会話は聴かれていないだろうが。
 慌てるミルシーに、人差し指をつき立てた。
「私と手合わせしましょう! 弱い者は妹だと認めません!」



「……ジュリアみたいになんでも暴力で解決しようとする人がいるから戦争が無くならないんだよ」
「うるさいな」
 マーヤとジュリアは城内の広場に立っていた。ジュリアの服装は平素のものと同じだったが、足元は動きやすそうなものに履き替えていた。また、手には刃がついていない剣がある。
 話を聞き付けたのだろう。休憩時間中の使用人や官吏が少し離れたところで見ている。中には心配そうに見守るムーアや、ミルシーに近付こうとするビッキーもいる。(ビッキーはすぐにエミリアに引き留められた)もちろんクロードもいる。
 更に、ジュリアの母・レイリンも腕をくんで闘いが始まるのを待っていた。
 眼前にいるのはミルシー。その細腕が抱えるのは、自らの身の丈程もある槍だ。
 ほとんど飾りのない、実用的なもの。マーヤが使う大剣に比べれば威圧感では劣るが、長さの割に軽く、大剣より扱いやすい得物だ。恐らくは、小柄な体格(といっても歳相応だ)を補う為のものなのだろう。
「武器はこの槍で構いませんでして?」
「ええ。好きなものを」
「ありがとうございますわ」
 そんな会話が交わされ、二人は向かいあった。
「ルールはどうします?」
「もちろん、
 ――お姉様が私を認めてくれるまで。他には必要ありませんわ」
 そう言い終わったその瞬間――ミルシーは地を蹴った。
 初速から一気に最高速へ。
 髪は金色の二筋の線となり風を切る。
 そして、全身をバネにした、ありったけの力が込められた一撃。
 剣を、そして腕を伝わった衝撃に、ジュリアは顔をしかめた。
 武術は、力の強さだけではない。それでも、ジュリアは認めざるを得なかった。
 ……強い!
 単純な筋力の話ではない。
 力の乗せかた、攻撃の型、狙いの位置。どれもこれも武器の特性を理解した上での効果的な攻撃だ。一つ一つの動作はしなやかで美しい。厳しい鍛錬の跡が、たった一撃の中にあった。
 ミルシーは2、3歩ひくとにっ、と笑った。自分の力はどうだ、とでも言うように。
 ……なるほど、この攻撃は俺に力を誇示するためのものか。
 ジュリアは考える。
 だから真っ正面から斬りこんできた。ジュリアに自分の一撃を受けさせるために。
 ムーアから話は聞いていたが、これほどとは。
 だが、ジュリアは彼女の実力を認める訳にはいかない。だが今の一撃から、力比べで大差をつけるのは、武器の上でも難しいと判断する。
 つまり、弱点を徹底的につくしかない。
 槍のような大きな武器の欠点――すなわち、振りが大きい分小回りがきかず、攻撃が失敗したときに無防備になってしまうこと。
 得物の長さの違いは決定的に不利にしているが、そこを利用しなければこちらの勝ちはない。ジュリアは今までも、槍や大剣を相手にそうやって勝ってきていた。



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