プリンセス・ジャック
3
グリーデント王国は豊かな国だ。
肥沃な土壌、温暖な気候、国の中央を流れる大河。
様々な環境に恵まれ、国は大陸一の農業大国となった。
歴代の治世者も善き王が多く、民は飢えを知らず、富は有り余っていた。
だが皮肉なことにそれは戦いの火種となった。
その有り余った富によって地方の貴族や一部の農民が力を持ち始める。
富という『力』では満足しなかった彼らは、権利という『力』を求め、王政への不満を募らせる。
結果――グリーデント王国はしばしば内乱が起こった。
そんな中、内乱が起こるたびに命を狙われる王家ではある考え方が生まれた。
――王は民が反乱を起こさぬよう政治をとる。
――その妃は王を一番近くで支え、そして護る。
そのため妃に限らず王家の女性は武術をたしなむのが伝統となった。
今日、それは王家だけではなく貴族、民衆にも根付いている。もちろん全ての女性が武術を身につけているわけではないし、女性が武術をすること自体に反対する者もいる。
だが、何年も平和が続いている今でもその伝統は廃れることはない。
ジュリアもまた王家の女にふさわしくあるため幼い頃より武術の修行を続けていたのだ。
様子を見ていた者達の間にざわめきが走る。それは姫が剣をとったことに対する驚きではなく、ジュリアとロエルの戦いに対しての興味からであった。
何か言いたげなロエルにジュリアは微笑みを向ける。
「まさか、断ったりしませんよね? お兄様」
「え……」
先に言われてしまっては断れるはずもない。さらにジュリアは続ける。
「でも、優しいお兄様ですもの。妹相手に本気でかかってくるような酷いことはしませんよね?」
何も言えなくなるロエル。
「審判は先程、お兄様に負けた貴方で。
では――」
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