プリンセス・ジャック 10 作戦一。 自分には既に好意を持っている人がいることを伝え、ミルシーに諦めてもらう。 「その好意を持ってる相手って男?」 マーヤの素朴な疑問。 「そりゃそうだろ。性別隠してるんだから」 「……いるの?」 「いないよ、真面目な顔で聞くな!」 「なぁんだ……」 マーヤが残念そうに見えるのはきっと気のせいだ。 とにもかくにも、作戦は実行された。 ジュリアが一人、中庭を出歩くというと、案の定ミルシーはついてきた。これは計算通りだ。 庭の中を適当に散策する。当然ミルシーはついてきて、一方的に話しかける。 しばらくして―― 「あ……」 ジュリアの目がとらえたのは青色の騎士団の団服を着た、金髪の男だ。 まるで突然の出来事に驚いたような表情のジュリアだが――これは完全なる演技。計算のうちなのだ。 ジュリアの視線に気付いたミルシー。 「あのお方はどなたですの?」 「ああ、ミルシーは知りませんでしたね。 ルーカス様はあの若さで騎士団団長にまで登り詰めた天才。王国でも一、二を争う剣の使い手と言われています。 ……とても素敵な方です」 そこでジュリアは少し紅くした頬に手をあてる。 そして、恥じらうように、熱い視線をルーカスに向ける。 ……よし! しとやかなその動作とは裏腹にジュリアは内心、ガッツポーズをした。 誰がどうみてもルーカスを恋慕しているようにしか見えないはずだ。 「お姉様……あの方は、お姉様の想い人なんですか?」 「実はそうで、」 ジュリアが最後まで言う前に、 「それでも、ミルシーはお姉様のことが大好きです」 そこには一片の迷いも無かった。 作戦一、失敗。 [*back][#next] [戻る] |