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プリンセス・ジャック


 ビッキーにとどめを刺す直前、ミルシーはエミリアとムーアによって止められた。
 今後のことも含め、国王と面会することになった彼女はロエルとムーア、クロードと共に、名残惜しそうにその場を去った。
 ビッキーもまた、エミリアの手を借りながら医務室へと向かったため、残されたのはジュリアとマーヤだけだ。
「えと……『ジュリアお姉様』?」
「だまれよ……」
 嫌がらせとしか思えないマーヤの発言に、ジュリアは溜め息をつく。
 ジュリアの顔には疲労の色がはっきりと浮かんでいた。
「でも意外だなぁ、ジュリアにあんな可愛い妹がいたなんて」
「可愛いねぇ……」
 マーヤの言葉に、ジュリアは歯切れの悪い返事をする。
「あれだけ自分のことを慕ってくれているのに、可愛いって思わないのかな?」
「好意は、なんというか……居心地が悪い」
 彼女が慕っているのは『ジュリア』ではない。『ジュリア王女』だ。本当の自分ではない自分を好かれるのはいつものことだが、ここまで慕われるとなると……なんともいえない複雑な心境になる。
 彼女が妹であるにも関わらず隠し事をいることもそな理由の一つだ。
「それはジュリアが優しいからだよ?」
「なんでそうなるんだよ」
「だって嘘をついてることに罪悪感を覚えるのは、優しい人だもん」
 そっぽを向くジュリア。表情には現れていないが照れてる、らしい。
「……ジュリアは素直じゃないよね」
 そう微笑むマーヤ。

「……それにしても、この塀は誰かさんといい少女が乗り越えやすいようになってるのか?」
「あ、ごまかした。
 それはともかくジュリアはミルシーちゃんのことをどうするつもりかな? やっぱり秘密を教えるの?」
「どうもしないさ。いつまでも王宮にいるって訳じゃないだろ。
 適当にごまかして、やり過ごすよ」
「そう上手くいくかなぁ?」
 マーヤの心配通り、ジュリアの思いのように事は進まなかった。
 少し経ってやってきたロエルは二人に告げた。

 ミルシーが王宮で暮らす事になった、と――


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