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プリンセス・ジャック


 ここは王宮の中にある庭園。
 広さもさることながら、ここに初めて来た者を驚かせるのは、その美しきである。
 完璧な配置により、どの花もお互いを引き立てるように調和しており、当然、一つ一つも美しい。
 高い煉瓦塀で囲まれたそこはまさに外とは別世界。
 やがて来る、深い秋を知らせるように花達が咲き誇っていた。

 そんな場所で、茶をすするのは、美しい姫君と赤い服を纏った騎士で――



 美しい姫から、おおよそ似つかわしくない、品もひったくれもない言葉が発せられる。
「やっぱり砂糖いれすぎじゃないか? マーヤ」
 赤服の騎士――マーヤの砂糖壷とカップを往復する手は、いつまでたっても止まらない。
 向かい側に座ったジュリアは、さすがにマーヤの体が心配になったのだ。
「大丈夫、大丈夫」
 当人は全く気に止めていない。
 そんな彼女にジュリアは呆れ半分に言う。
「歳くってから、病気になっても知らないぞ」
「大丈夫。
 たくさん食べて体に悪いのはお肉とかだよ。野菜っていくら食べても体にいいでしょ?」
「食べれば食べた分、体にいい訳じゃないがな。それ以前に砂糖は野菜じゃない」
 ジュリアのもっともな指摘にマーヤはチッチッチと指をふる。
「甘いね、ジュリア。
 砂糖はサトウキビっていう植物から出来てるの。植物ってことは野菜の仲間。
 だから大丈夫なの」
「すごい理屈だな」
 そうは言うが、正論をいくら並べても、マーヤが聞く耳持たないことをジュリアは承知していた。
 幸せそうに茶をすするマーヤを見ていたジュリアはしみじみと感じた。
「平和だなぁー……」
「平和が一番。昔偉い人もそう言ってたよ」
「偉い人が言ってたか分からんが……平和は良いとしても退屈は駄目だ。人を腐らせる。外も内もな」
「そうかなぁ……」
「ああ。俺の友達に、暇を持て余し尽したために平和ボケしてしまった赤服の騎士がいる」
「……ジュリアに私以外の友達なんていたんだね」
 ジュリアの皮肉を皮肉で返したマーヤは、拗ねたように口をとがらせたジュリアに言う。
「ならさ。日常を楽しくする方法を考えよ? 勉強とか武術とか、何かしら目標を立てるとか」
「マーヤが言うと、本当口先だけだよな。
 それはいいとしても……そうだなぁ……。
 またロエル兄さんに喧嘩をふっかけてみるか」
「なんでそうなるのかなぁ。兄弟喧嘩は絶対駄目だよ」
「喧嘩じゃないよ。一方的にいじるだけ」
「うーん……、じゃあいっか!」
 ……それでいいんだ。
 心の中でそう突っ込みながらジュリアは紅茶に口をつけた。

 姫と騎士の緩い緩い昼下がり。

 そんな時間は、二人を見下げる『影』によって終わりを告げた。


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