プリンセス・ジャック 6 「いいですよ。分かってます。 俺がエヴァリーヌ様から離れられなかったのは、ただ怖かったからです。 俺がエヴァリーヌ様を離れたら、代わりの誰かが貴女を護るでしょう。それが堪らなく嫌で、怖かった。 実のところ、エヴァリーヌ様のお気持ちが分からなくなったことも、幼い日の誓いや約束を忘れそうになったこともあります。 でも、想像できなかった。したくなかったんです。 自分以外の誰かがエヴァリーヌ様を護るのを。エヴァリーヌ様を護るのは自分でありたかった……。 そんな理由です。……軽蔑しましたか?」 「いいえ。まさか。 ……ありがとう」 そう顔を少し綻ばせる。小さな声だったが、確かにシャムリーの耳に届いた。 「そう言えば、俺もまだきちんと言ってませんでした」 改まった口調でシャムリーは言った。 「愛してます」 「ぅ……」 不意打ちだった。卑怯だ、と思えるほど。 頬がこの上なく熱い。 「……ずるいわ。貴方はここ最近で、ずいぶん意地が悪くなった」 「エヴァリーヌ様は今も昔も変わらず、……愛らしいです」 控えめな口調で、彼の頬は少し赤かった。 「か、からかってるの!?」 「まさか! そんな……」 「だって……」 幸せな時間。でも身分が違いすきる二人が結ばれることはない。 幼いエヴァリーヌはそれが悲しいことだと思っていた。 だが、違う。 例えば結ばれなくとも、『愛』は確かにここにあるのだから。 それは幸せなこと。 「シャム」 「なんですか? エヴァリーヌ様」 「私のことは……『エヴァ様』と呼びなさい」 [*back][#next] [戻る] |