プリンセス・ジャック 2 グレイ・ケイシュ王国、王城。 その一室で密談が執り行われていた。 椅子に腰掛ける、白髪混じりの初老の男はこの国を統べる王。 対するのはグリーデント王国第一王子、ロエル・グリーデントだった。そして、彼の側には使用人服の少女、エミリアが控えている。 「ロエル王子、例の件なら先日言った通りです。どうか、寛大な処置を――」 「……陛下は何か勘違いなさっているようです」 ロエルは静かに声を放った。 「今回の事件は両国の関係を揺るがすもの」 「ですが、グリーデント王国側の被害は少なかった! 見逃す代償として、エヴァリーヌの命だけでは足りぬということはないでしょう!」 彼の拳が、机を震わせた。だが、ロエルはいたって冷静だ。 「だから、勘違いなさっていると言ったのです。グリーデント王国は彼女の命など求めていない。我々にとってなんの利益もありません。 事件が公になっていない今、彼女の死を望む者はいないのです。 我々が望むのは――グレイ・ケイシュ王、あなたの退位です」 グレイ・ケイシュの王は目を見張った。 「な、なにをおっしゃって……」 彼は戸惑いから、声を震わせていた。 ロエルはやはり淡泊な調子で続けた。 「喜ばれてはどうです? 自分の地位一つで、娘の命を救うことが出来るのです。 グレイ・ケイシュの人々も、強く反対はしないでしょう。貴殿より貴殿のご子息のほうが王に相応しい、と考える者も少なからずいると聞きます」 悔しいそうに睨みつける彼に、ロエルは追い撃ちをかける。 「もしもこちらの要求をのんで頂けなければどうなるかは、お分かりですね? この度のことが国中……いや、大陸中に知れ渡るでしょう。もちろん、『真実』を明かにした上で。結果、戦争も避けられないかもしれません」 「くっ……」 唇を噛むことしか出来ない。 そんな彼を見て、ロエルは自分の役割は終わったのだと思った。 「……では私はここで失礼します」 席を立ち、頭を下げる。 「……待て」 低い声でそう言ったかと思うと、グレイ・ケイシュ王はいきなり剣を抜いた。 ロエルを襲う白刃。 ロエルは動かなかった。 動いたのは、使用人服の少女―― エミリアの手が、剣を掴んだ。 彼女の指には血は流れていない。刃のついていない部分を掴んだのだ。驚くべき目と反射神経だ。 目の前で起きたことが理解出来ず立ちすくむ彼に、ロエルは言った。 「それでは、お元気で……」 [*back][#next] [戻る] |