プリンセス・ジャック
12
「エヴァリーヌ様、俺は……!」
「黙れ! お前の声なんて聞きたくない!」
シャムリーの言葉を、エヴァリーヌの感情的な声が打ち消す。
雨足はすぐに強くなっていった。雨が地面を、エヴァリーヌとシャムリーを打ち付ける。
雨垂れが体を伝うのだど、気にせず、エヴァリーヌはシャムリーを見た。
……自分など置いて、逃げろ。
そう、伝えたかった。
そのとき人影が現れ、彼らを取り囲んだ。
人影はグリーデントの騎士達。既に剣を抜いていた。
シャムリーはエヴァリーヌをかばうように、背を向けた。
一人の騎士がシャムリーに切り掛かる。
シャムリーはそれは避けたが、次に来た騎士の攻撃は回避出来なかった。
「シャムリー!」
肩から胸にかけて、深い傷が走る。
鮮血が舞い、シャムリーはそのまま倒れた。
「シャムリー……シャムリー! 貴女はどこまで馬鹿なの! 愚か者!」
エヴァリーヌは屈みこみ、シャムリーの肩を掴む。赤い血がべっとりと手に付着した。
シャムリーの血が、雨と混じって地面ににじんでいく。
「エヴァリーヌ様」
聞き覚えのある声に名を呼ばれ、エヴァリーヌは顔を上げた。
そこには、見覚えのある顔が――マーヤがそこにいた。
「エヴァリーヌ様。私、ずっと謝りたかったんです。あの時のこと。
エヴァリーヌ様がどんな気持ちでいたか知らないであんな言葉を言ってしまったこと」
彼女が言っているのは、五年前、マーヤがエヴァリーヌを怒らせたときのこと。
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