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プリンセス・ジャック
11
「本当は誰より愛しくて、大切な存在だったんです。例えば、シャムリー様に近く女がいたら、嫉妬に狂って我を忘れてしまうほど」
 ミルシー、クロードが次に訪ねたのはフィーネだった。
 簡素な作りの部屋に軟禁されていた彼女に、ミルシーは言った。
 エヴァリーヌのことが聞きたい、と。
 フィーネは眼帯越しの目を撫でながら語り出した。隠されていないほうの目はどこか遠くを見つめていた。
「エヴァリーヌ様にとってのシャムリー様も、シャムリー様にとってのエヴァリーヌ様も、間違いなくかけがえのない存在です。それでも二人の心が交わることはいない――いえ、お二人は既にお互いの心を知っているのかもしれません。
 それでも、シャムリー様はエヴァリーヌ様から離れることをしなかった。
 エヴァリーヌ様はシャムリー様をいくら罵っても、騎士の地位を奪うことはしなかった。
 何が二人を結び付けたんだと思います?」
 フィーネの問いに、ミルシーは答えられなかった。
 フィーネは言った。
「それが、すなわち、愛です」
 五日前、ミルシーが言った言葉と同じ言葉を。
 自嘲気味にフィーネは続けた。
「最初から敵いっこなかったんです。二人の関係に横槍を入れようなんて、無理だった。この左目は、それを思い知ったときに失ったんです。
 だから、私は見ていたかった。あの二人のどこまでも矛盾した、深い深い愛の物語を。残酷なほどに優しくて、哀しい恋物語を。
 物語の顛末を見届けることが出来そうもないのは――すこし残念です」
 フィーネは、外を見た。
 灰色の空からは、幾つもの雨粒が降り注ぐ。地面に落ちた雫は、弾けるように形を失っていった。
 小さな声で、彼女はつぶやく。
「この雨は……いつになったら止むんでしょうね」


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