プリンセス・ジャック
10
それは色褪せた優しい記憶。
色褪せても決して消えない記憶。
消すことなど、できるはずはないのだ。
消えるどころか、今なお胸を締め続けているのだから。
幸せな姫君は気付いてしまった。
自分と自分を想う騎士との恋は、許されることのないものだということに。
許されざる気持ちを持ち続けたら、どうなるか? ――幼い彼女は考えた。
彼は騎士ではいられなくなるかもしれない。
つまりそれは、少年が彼の誇りである剣を奪われてしまうかもしれないと言うこと。
そのことは彼女が最も望まないことだった。
だから彼女は決めた。
自分は自分の恋を諦めようと。そうすれば、彼も自分から離れていくだろうから。
自分を想う少年を嫌うことなど出来なかった彼女は、少年が自分から離れていくようにしようとした。
そう決意してからだった。
彼に笑顔を向けることをしなくなった。
彼が綺麗だと言った髪を切った。
彼からのささやかな贈り物を捨てた。
最初は小さなものだった拒絶の振る舞いは、だんだん大きくなっていった。
そうやってさも彼を嫌うかのように振る舞うのは、彼女にとって辛いこと。
だから祈った。早く彼が自分から離れていってしまえ、と。
彼女の拒絶がどんなに続いても、どんなに酷いものになっても――その矛盾した想いが聞き届けられることは無かった。
二人の関係がどんなにいびつに歪んでも。
「それまでずっと一緒だよ」
幼い日の約束だけが、守られ続けられた。
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