プリンセス・ジャック
8
突然の出来事に、その場にいた者たちは言葉を失った。
そこにいたのは、灰色の髪の少女。
使用人服のスカートをなびかせ、強い力を感じる瞳で敵を見据る彼女は、ロエルの想い人でもあった。
……エミリア。
「お前は、何者だ……!」
古傷の騎士が焦りの篭った声で言う。
「名乗るほどの名は持ち合わせておりません。一介の、使用人です」
淡々と言い放つと、エミリアは今しがた倒した騎士から、武器を奪った。
鈍い銀色に輝くそれは斧槍と呼ばれる、重量のある武器。
槍に斧が取り付けられた形状で、更にその反対側に鉤爪がついている。
重さや機能の多様性から扱うには熟練を要するが、エミリアはこの武器で戦うことに迷いはない。
「ロエル様」
それを構えると、エミリアはロエルにしか聞こえない声で言う。
「……遅れてしまって申し訳ありません」
「いや……来てくれてありがとう。
エミリア、君の働きに期待して、改めて命令する。
敵国の騎士と戦い、勝利せよ」
「かしこまりました。お任せ下さい」
エミリアがそういうと、同時、古傷の騎士の掛け声とともに騎士達は襲いかかる。
襲いかかる騎士達。
エミリアは彼らの懐を槍で突く。斧で肉を絶つ。鉤爪で武器を絡めとり、叩く。
圧倒的――ただその一言につきる戦いっぷりだった。
そんな彼女を何とか止めようと、ある騎士が彼女の死角から槍を振りかぶり襲いかかる。
[*back][#next]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!