プリンセス・ジャック 5 黒衣の騎士達の中、アーミャはの体が舞う。その様子は戦うというより、暴れまわると言ったほうが正しい。 背後から振り下ろされた剣を、軽い身のこなしで避け、その騎士の股間に蹴りをいれる。 次の攻撃は身を伏せてかわして、騎士の顔面に拳を叩きこむ。 たった一人の少女に、騎士達は翻弄されていた。 それは単にアーミャの実力のせいではない。 騎士達の攻撃には迷いがあった。グレイ・ケイシュの騎士は騎士道を尊ぶ。任務と割り切りながらも、歳の若い少女を斬ることに抵抗がある。 また、彼らがこなしてきた鍛練の内容には、アーミャのような者を対処する方法など含まれていなかった。 片やアーミャはそんな騎士道は持ち合わせていない。 敵を排除することを躊躇する心など持ち合わせていないのだ。 彼女は自分の弱点を知っている。体格――つまり、攻撃の軽さだ。 だから、彼女は速さと攻撃の数、急所を狙うことでそれを補う。 連続して繰り出される攻撃。 戦う彼女は、まるで急所ばかり攻撃する爆弾のようだ。 ロエルは剣を握りながら、冷静にその様子を見ていた。 ……他の騎士達はまだか。 このまま彼女が、敵を倒し続けることは無理だというのは分かっていた。 彼らとて訓練を受けた戦士だ。 ――爆発し続ける爆弾などありはしない。 馬車の前方と後方に、護衛の騎士がいたはず。そう思ってそちらを見たが、見えたのは黒衣の騎士。 どうやらそちらも囲まれているらしい。 ロエルは内心舌打ちした。 こちら側は戦力はほとんどない。 大臣補佐は戦力としてあまり期待出来ない。アーミャに自分が助太刀したところでこの人数が相手では、敗北は避けられない。 どうすれば。その結論を出す時間はなかった。 [*back][#next] [戻る] |