プリンセス・ジャック 18 自分の名を、呼ぶ声でマーヤは意識を取り戻した。 背中が冷たい。床に直接寝ているためだ。 覚醒しきっていない意識の中、マーヤはここに至るまでの経緯を思いかえす。 ……えっと、確かシャムリーを倒した後、疲れ果ててフラッとなって、それで階段から頭から落ちて……。 つまりマーヤは、一日二回も頭を打ったことになる。こんなこともなかなかないな、と緩んだ頭で考えた。 そして自分の名を呼ぶ声のことを思い出し、ゆっくり重い瞼をあける。 今にも泣きそうなジュリアが、そこにはいた。 「じ、じゅりぁ……」 体の節々が痛むのを何とか堪え、マーヤは身を起こす。 その時、上半身が暖かいものに締め付けられた。 ジュリアの顔が顔のすぐ横にあることに気付いて、マーヤは今自分が抱きしめられていることを知る。 「しっ……心配したんだからな……」 振り絞るような声がマーヤの耳に届く。 「ごめんね。……ありがとう」 ……私のこと、心配してくれて。 ジュリアはゆっくりと身を剥がした。 気恥ずかしさから、そっぽを向く。 「あの、ジュリア」 少し言いにくそうにマーヤが聞いた。 「……シャムリーは?」 回りを見回すが、シャムリーの姿はない。少し離れたところに、見覚えのある騎士がいた。同じ騎士団に所属している騎士だ。 「後から来た騎士団に傷の手当てを受けてから、城に連れられていった。 服の下に薄型の鎧を着込んでたらしいから……致命傷にはなってないみたいだった」 どうやらマーヤは、マーヤが思っていたより長く気を失っていたらしい。見ればジュリアや自分も怪我の手当てを受けていた。 シャムリーが命拾いしたことに安堵しながら、マーヤはずっと思っていたことを言う。 「ジュリア」 「今度はなんだ?」 「……その服、似合ってるよ」 そういう彼女からは、穏やかな微笑みが自然にこぼれていた。 少し開いた扉の隙間から見える東の空は、既に薄明かりに包まれていた。しばらくすれば、太陽が顔を覗かせるだろう。 長かった夜は、間もなく明ける。 episode6 END To be continued…… [*back] [戻る] |