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プリンセス・ジャック
10

 突如始まった二人の口論に、シャムリーは思わず攻撃の手を止めていた。命を賭けた戦いの場においてあまりにも緊張感のない会話で、つい集中を切らしてしまったのだ。
 そんな彼のほうを向き、マーヤははっきりとした口調で。
「シャムリーやエヴァリーヌ様には……言いたいことがたくさんあるよ。でも……」
 剣を構え、宣言する。
「今はそんなこと、どうでもいい。
 ――ジュリアを泣かした人は許さないから!」
「だから泣いてない! 泣いてないから!」
 ジュリアは必死に訂正する。
 マーヤは首だけで振り返り、優しい声と眼差しで言った。
「ホントに泣いちゃいそうだよ」
「…………」
 泣きそう。それは事実だった。
 自分が感情に任せてここに来た。そのせいでマーヤが、そしてミルシーが危険な目にあっている。そう思えば、自責の念から、何か熱いものが込み上げてくる。
「そんな顔しないでよ」
 ……誰のせいだと思っているんだ。いや、自分のせいなのだが。
「お姫様の……ううん、王子様の役割は、騎士が戦うのを信じて待ってることなんだよ」
「……お前みたいなヘッコポ、信じてられるか」
 ジュリアは、こんなときでも素直に、『心配だ』と言えない自分がもどかしい。
「信じてよ。大丈夫、私の剣は『最強』だから」
「はぁ?」
 この期に及んで何を。
「この剣はジュリアを守るから、最強。そうだよね、シャムリー」
「……ああ」
 マーヤの妄言をシャムリーは静かに肯定した。
「だが、勝つのは俺だ」
 そうして、また剣を構えた。



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