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プリンセス・ジャック


「あの女は、言いましたの」
 ミルシーはぽつりぽつりと自らの想いを吐き出していく。
 今、彼に想いを伝えたいと思った。伝えなければいけないと思った。
 それが心配をかけたことへの償いにはならないことは分かっていたが、何も言わないのはもっと悪いことだと思ったのだ。
「……私は自分の想いを利用されているだけだと」
 一瞬、クロードは手を止めたが、すぐ止血作業を再開する。
 無言だが、真剣に彼女の言葉に耳を傾けた。
「私は言い返しましたわ。そんなことは関係ない。
 私はお兄様を愛しているのだから」
 愛している。その言葉に偽りはない。
「でも」
 ミルシーは知っている。
「この想いは、決して永遠ではありませんわ……」
 ミルシー・グリーデントの恋は――余りにも障害が多過ぎた。
 ミルシーが王族でありながら、それを周りに認められる存在ではないということ。
 腹違いであるとはいえ、兄弟であるということ。

 何よりも、愛する兄の想い人は決して自分ではないということ。
 自分の狂おしいほどの恋心は本物だ。大好き。愛してる。そんな言葉では足りないほどの、気持ちだ。
 だが、その想いが十年、二十年後も続いているだろうか。
「先日、お母様がおっしゃいましたわ。私が十五歳になったら、正式な王族として迎えいれるつもりだ、と。
 それを聞いて……もちろん、嬉しかった。そして同時に、未来というものが少しずつ形作っていくようになったのです」
 いままでの自分なら、疑うことなく言えた。これから先もずって兄への想いを持ち続けることが出来ると。不透明な未来を生きるミルシーにとって、想いそのものこそ未来への希望だった。
 だが、未来が確かな輪郭を作り始めて現れたのは、自分の想いは決して叶わないという現実。
 王族として生きる。それは今よりも自分の行動に責任を持たなければいけないということ。
 この恋は終わりが来る。
 フィーネも言った通りだ。恋なんていつかは終ってしまう。



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