プリンセス・ジャック
9
その時、扉が開いた。
床に背中をつけたままのロエルが見たのは上下逆になったエミリアの顔。正確には上下逆なのはロエルのほうだが。
……なんでエミリアが?
目を白黒させたエミリアはそのまま、一歩下げると静かに扉を閉めた。
……エミリア、どうしたんだ?
闘いの中で不覚をとってしまったため、ジュリアに押し倒された。それだけだ。
だが、それを見た彼女はこの状況を、一体どう思ったのか。
今のエミリアの反応と照らし合わせ考えると嫌な想像が頭をよぎった。
「ちょ、エミリア!」
ジュリアも慌てて身を起こした。
「あの、どうかしたの?」
扉をあけたはいいが、中に入ることなくその場を立ち去ろうとするエミリアに、こっそり見張りを続けていたマーヤは声をかけた。
「えと……その……なんと言えば良いのか分かりませんが……。
ジュリア様がロエル様を押し倒してました」
「…………」
「これは、その、わたしは、どうすればいいのでしょう?
えと、お二人は兄弟で、それでジュリア様も男で、その、それなのに……」
彼女にしては珍しく、言葉をつまらせながら言う。
困惑しているのは明白で、心なしか頬も紅い。
そんなエミリアにどう言葉を返そうか考えた結果、マーヤは――
「それはいろんな意味で禁断の愛だね。でも私達の知らない、いろんな世界があるのかも……」
「ちがうだろぉ!」
勢いよく再度扉が開けられ、中からジュリア、その後ろからロエルが出てきた。
「なんで事態をややこしくするようなこというんだよ、マーヤ!」
ジュリアに詰め寄られたマーヤは耳を塞ぎながら、
「若い男女が二人っきりになったらなにかしら起こるっていってたし……」
「言ったけど、まず男女じゃないから!」
「若い男同士でも問題は……」
「あるよ! まず俺のほうが兄さんを押し倒すっていうのがあり得ないね!」
「逆はあるみたいな言い方するな!」
口論にロエルが参加した時だった。
戸惑いっぱなしだったエミリアが、
「大丈夫です!」
はっきりした声をあげた。
「私は主のプライベートには立ち入りません!
もし見てはいけないものを見てしまった時は、メイドらしく見てみぬふりをします!」
どうやら誤解は全く解かれていないようだ。
必死に誤解を解こうとするロエル。
さらに事態をややこしくするようなことを言うマーヤ。
口を尖らせ文句をいい始めるジュリア。
グリーデント王国の王宮は、騒がしさを増していった。
episode1 END
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