プリンセス・ジャック 6 「そう。 でもレイリン王妃の話は、もう随分昔の話だけど、この国でもよく話されているわ。取り分け貴族の娘の間ではね。 レイリン王妃は地方の貴族出身だから……お城から王子様が迎えにくるなんて……なんともロマンチックな立身出世の物語じゃない?」 自らも王族であるが故か、エヴァリーヌ自身は特に憧れを感じていないようだ。 「そうなんですか? グリーデント王国では愛と血と涙の物語として語られてるんですが……」 マーヤの言葉に、エヴァリーヌは首を捻る。 「……所変われば物語も形を変えるのね。 そういえば、貴女は騎士だったわよね。グリーデント王国の王立騎士団は猛者たちの集まりだと聞くわ。 かなり厳しいところでしょうね……貴女じゃ通用しないんじゃない?」 「私は変わり者の集まりって聞いて……」 「…………」 言葉を失ったエヴァリーヌ。 「エヴァリーヌ様?」 やがて口元を抑え、笑い始めた。 「くすっ、フフフッ……」 「エヴァリーヌ様、どうかしましたか!?」 「いえ、余りにも自分が知る話とは違うから可笑しくなってしまって! とても面白いわ。 王族や貴族は本に向かって勉強しているだけでは駄目ね。勿論それも大切だけど……実際に見て、聞いて、見聞を広めることもまた、大切だわ」 「つまりは……えっと」 「騎士だって同じよ。ただ無心に剣を振るうだけでは駄目。時には一度立ち止まって、何故自分は剣を振るうのか、考えないと」 「……」 ――剣を振るう理由。 その言葉が胸に引っ掛かった。マーヤにはまだはっきりとした理由はない。 だから何も言えなかった。 [*back][#next] [戻る] |