[通常モード] [URL送信]

プリンセス・ジャック


「そう。
 でもレイリン王妃の話は、もう随分昔の話だけど、この国でもよく話されているわ。取り分け貴族の娘の間ではね。
 レイリン王妃は地方の貴族出身だから……お城から王子様が迎えにくるなんて……なんともロマンチックな立身出世の物語じゃない?」
 自らも王族であるが故か、エヴァリーヌ自身は特に憧れを感じていないようだ。
「そうなんですか? グリーデント王国では愛と血と涙の物語として語られてるんですが……」
 マーヤの言葉に、エヴァリーヌは首を捻る。
「……所変われば物語も形を変えるのね。
 そういえば、貴女は騎士だったわよね。グリーデント王国の王立騎士団は猛者たちの集まりだと聞くわ。
 かなり厳しいところでしょうね……貴女じゃ通用しないんじゃない?」
「私は変わり者の集まりって聞いて……」
「…………」
 言葉を失ったエヴァリーヌ。
「エヴァリーヌ様?」
 やがて口元を抑え、笑い始めた。
「くすっ、フフフッ……」
「エヴァリーヌ様、どうかしましたか!?」
「いえ、余りにも自分が知る話とは違うから可笑しくなってしまって! とても面白いわ。
 王族や貴族は本に向かって勉強しているだけでは駄目ね。勿論それも大切だけど……実際に見て、聞いて、見聞を広めることもまた、大切だわ」
「つまりは……えっと」
「騎士だって同じよ。ただ無心に剣を振るうだけでは駄目。時には一度立ち止まって、何故自分は剣を振るうのか、考えないと」
「……」
 ――剣を振るう理由。
 その言葉が胸に引っ掛かった。マーヤにはまだはっきりとした理由はない。
 だから何も言えなかった。




[*back][#next]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!