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プリンセス・ジャック

 隣国の騎士の刃に倒れた少女騎士。
 彼女は夢を見る。
 それは遠い過去の出来事。

 愚かで無知だった頃の夢。

 それは五年前、彼女がグリーデント王国の王城にやって来る前の事。

 ある男の元で剣の修行に励んでいた彼女は、グレイ・ケイシュ王国にやって来ていた。
 目的はグレイ・ケイシュ王立騎士団で騎士としての心得を学ぶため。

 だがそれまで寛大な師の元、自由な環境で剣の修行を続けて来た彼女にとって、それは苦難の連続だった。




 グレイ・ケイシュ王城の隅――建物と建物の間の、多く人に忘れられた場所。足首くらいまでの雑草が茂り、華やかな王城に似合わない場所だった。
 そこにいるのは大剣を携えた少女。剣を持っているということから騎士であることが想像できる。
 しかし騎士にしては、実に風変わりだった。十を越えたぐらいの年齢は勿論、その服装はグレイ・ケイシュ王立騎士団指定のものとは、全く違う。
 腹部が露出した、赤い派手な服だ。城の何処にいようが酷く浮いてしまうだろう。
 彼女の名はマーヤ。
 マーヤは落ち込んだようにため息を一つつき、建物で切り取られた灰色の空を見上げた。
 だが、くすんだ色の空を見ていると更に気分が沈みそうなので、マーヤは空を仰ぐのはやめる。
 落ち込んでいる理由は、彼女の奇抜な格好に反し、平凡なものだった。


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