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ギュッと一回抱き締められ、体を離した先輩は声を荒げて僕を見た。
フワッと香るバニラのような甘い匂いに心が揺さぶられたが、僕は声をつまらせて視線をそらした。
今、この人の目がとても純粋に僕を見ていたのが、僕の中の罪悪感を刺激してきたのだ。
「ぁ…あ、ごめんね。こういうことを恐れたんだよね…」
僕が目をそらしたのを、騒がれてウンザリしているととったのか、未來先輩は肩に置いていた手を退かして申し訳なさそうに謝ってきた。
ああ、違うのに。僕が先輩に悲しそうな顔をさせてしまっている。
とにかく先輩のせいではない、ということを伝えなければ。僕はもうカラカラになってしまった口を必死に動かし、言葉を発した。
「ち、違うんです…」
「……え?」
「星大としての、自信がなくなって…書くのに、疲れてしまって…」
「大志くん……そうだよね、理由があって黙ってたのに…ごめんね?」
未來先輩は知っている、この2年近くで僕がどれだけの作品を出してきたか。
だからなのか、この特進科にはそういう人が多いのか、未來先輩はまた謝ってきた。今度は頭を撫でるという優しさ付きで。
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