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「…くそ、なぜ僕が一番遠いんだ」
(…あの人大丈夫かな…)
モール担当の経理が、ブツブツ文句をいいながら拓の近くを通り過ぎていった。
見た目通り運動は出来ないらしく、この前の競争を思い出して拓は心配そうな表情を浮かべた。
「はぁぁ怖い見つかりませんようにっ」
なむなむなむ、と手を合わせて祈る。既に拓の見える範囲では人が捕まり、追いかけられている姿がそこら中で見える。
スタートしたばかりでまだ人数が多いせいもあるだろうが、拓が隠れている方まで人が逃げてきたときは本当に泣きたくなった。
…と、スタート開始から間もなくして。
「…な、くるん、じゃな…いっ」
「ん?…えっ」
「はぁっ、はぁっ!た、助けてくれ瀬丘、どこだっ、…っ、ゔ!」
――ドテンッ
「…うわぁぁ…」
モールの方から逃げてきた男、経理。近くにいるだろうと予測してか拓の名前を呼んで助けを請うていたが、小さな石に躓いてそれは見事に転けてしまった。
追いかけていた相手は運動部、恐らく1年だろう。拓なら捕まえることが出来るがすでに遅く、その1年は経理のリボンを1つ取っていってしまった。
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