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いざという時、蒼は逃げることが出来ない。走れてもせいぜいゆっくりいって50m程度。全力なんて出せば25m保つかどうかといったところだ。
だから蒼の役目は、"捕まらないこと"。終了時、自分のリボンは得点にして10ポイントになる。捕まえたリボンが5ポイントと考えると、2本死守するのはかなり高得点となるのだ。
トイレに入り、さらに個室に入る。まるで新設されたばかりかのように綺麗なトイレにホッとしつつ、蒼は便座へ腰掛けた。
ドアは閉めない。
閉めてあるとそこにいるといっているようなものだ。人がきたらドアの内側に。そこでリボンが取れるなら取る、というのが蒼へ与えられた作戦と使命。
でも本当は。
「…走りたい、なぁ」
みんなと一緒に走りたい。
風を感じてみたい。…恐らく一生無理だけれど、たまに羨ましく思ってしまう。
負に陥りかけた蒼はプルプルと首を横に振り、やがて聞こえてきた足音に息を潜めるのであった。
◆
スタート合図とともに駆け出した拓は、作戦通り校舎からモールまでの間に身を隠した。
場所決めと、そしてしばらく時間が経つまで隠れること、作戦のうちの2つだ。
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