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「こ、こんなこと笑って話すなんて…酷いです先輩っ」
「チッ、…もういい。クソと同じ空気なんざ吸えるか。いくぞ花梨」
「うぁっ、ま、待って豊くん…!」
無理やり引っ張り花梨を連れて出て行く豊を、朋也はやはり笑みを絶やさず余裕な態度で見送った。
経理はまたサボるのかと喚いているが、もう部活なんて気分ではない。
知らなかった、あのあとすぐ、朋也に襲われていたなんて。
知らなかった、それを幸作が助けに入っていたなんて。
知らなかった、その幸作と、付き合っていたなんて。
知らなかったことばかり。
「待ってぇ豊くん!い、痛い…っ、豊くんっ」
「っ!…ぁ、わりぃ、大丈夫か?薬は…」
「薬?」
「…あー…いやなんでもねぇ。おい花梨、朋也にゃ近づくんじゃねぇぞ。絶対だ、分かったな」
「で、でも…、…うん、分かった」
腕を掴む力がまた強くなり、花梨はコクコクと頷いた。
するとようやく豊の手は離れ、上目使い気味に様子を窺う。
パチ、と目が合い、豊が屈んで顔を近づけてきた。キス。
顔を真っ赤にして受ける花梨はやっぱり守ってあげたくなるほど可愛くて、豊はキスをしながらその髪をサラリと撫で、慈しむのであった。
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