2 黒髪に低めの背。 それをさらに屈めてちょこちょこ通り過ぎていく蒼は運良く目立っていないらしく、このままいけば人混みを抜けれそうだ。 顔が平凡、というのもこの美形揃いの学校では救いなのかもしれない。…と、ホッと一安心した瞬間。 「――ヒュッ!…っ、はっ、ひゅっ、ひゅーっ」 (や、ばっ) 息が、うまく出来なくなった。蒼は幼いころから喘息を患っていて、特に激しい運動をしたときにその症状が現れてしまう。 これくらいなら平気だろうと甘くみていたツケが、安心をして緊張が解れた瞬間襲ってきてしまったのだ。とはいえ焦ることはない。 これが初めてというわけでもなく、常に最悪の事態を想定して薬を持ち歩いているのだ。 (あった、…っ!?) ――ドンッ 「げほっ!…ぁ、あ…っ」 「あ゙?…なんだ、こんなとこに座ってんじゃねぇよ」 よし、と薬の吸入器を取り出した瞬間、後ろから人がぶつかってきてそれが遠くに吹っ飛んでしまった。マズい、とさすがに焦りを見せた蒼にぶつかってきた生徒は、おい、とこちらも焦りを見せた。 当然だろう、蒼の呼吸の様子が、もう普通じゃなかったのだから。 「おい、大丈夫か?」 「っ、…ひゅっ、ひゅー」 「あ゙…?あれか、チッ、待ってろ」 [*前へ][次へ#] [戻る] |