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自然と豊が蒼の荷物を持ち、2人は歩き出す。当初心配されていた花梨はあっという間に友人も出来、ご飯を食べることも初日以外特になく。
たまに拓から授業中の様子を聞くが、別に仲のよい友人としての付き合いなら嫉妬することもないと、蒼は余裕を持てるようにもなっていた。
部屋にもいくし、2人で甘い時間を過ごす日もある。たまに豊の口から花梨の名が出ることもあるが、軽く聞き流すようにしていた。けれど。
「この前も声かけられてついてこうとしてるとか、何考えてやがんだか…」
「あー…危ないよ、ね」
「アオ…の方が少し高いか。でもアオでも押し倒せっかもな」
「はは、出来たとしてもしないって。おれには豊がいるし」
「クク、そうだったな」
日が経つにつれ、その花梨の話をする回数が増えていく。その名前を豊の口から聞くと、胸が痛くなる。
でも蒼は笑顔を浮かべそれを隠し、会話の節々に自分たちの関係や気持ちを確認するような言葉を入れるのだ。
ちゅ、と満足げにキスをしてきた豊に蒼は内心ひどく安心をした。…そのとき。
『…め、……っ!』
『おと、…――!』
「あ…?」
「な、なんかあまりよくなさげな声だね…」
「…めんどくせぇな…気のせいだろ、気のせい」
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