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――ガラッ
『お帰りなさいませ、お坊ちゃま!』
「はっ、はぁっ、ま、だ、だいっ、ゲホッ、ゴホッ」
『えっ、ちょ、大丈夫ですかっ?』
「だい、だいじょ、ゴホッ、はっ、けほ」
「アオ!落ち着け、アレ持ってねぇのか?」
急いできたせいか思わず咳き込んでしまい、入口にいた人に物凄く心配された。それだけじゃない、中にいた豊も蒼に気づいてくれ、すぐ駆け寄ってきてくれたのだ。
背中をさすり、薬はないのかと聞いてくる。蒼はコクコク頷き吸入器を取り出すと、震える手で口元まで近づけた。その手を押さえるように、豊の手が添えられる。
――ドキッ
(う、わ、これヤバイッ)
こんなことされたら余計心拍数があがるだけだ。蒼は薬を吸入しながらも別の意味で必死に心を落ち着かせ、ようやく咳も止まった。
結構注目を浴びていたようで、なんだか恥ずかしい。
「ご、ご迷惑おかけしましたー…」
「心配かけさせんな、アホ」
「えー心配してくれた、の?」
「あ?…あー…まぁ、一応な」
「っ…あ、ありがとう」
照れ隠しか目をそらした豊に、蒼も嬉しさと恥ずかしさで顔を俯かせた。クラスの中はもうほとんど一般客はおらず、蒼は奥の方の席へ案内される。
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