6 智春は少し迷ったがどうしても気になり、側へ近寄った。白衣は脱いでネクタイも緩め、こちらに気づいた看護師に頭を下げベンチへ座る。 『よかった。すみません、少し見ていただいててもいいですか?』 「え?あ、ああ、はい」 『ありがとうございます!すぐ戻りますからっ』 「…トイレか?」 智春がきたことに物凄く安心した顔を浮かべ、慌てて院内へ戻っていく看護師を見て、呟く。 それから思いもよらずまた2人きりになってしまったことに、少しだけ緊張した。 奏は、相も変わらず空を見上げているが、その目には何も映っていない。 けれど話しのネタにはなるだろうかと、智春は奏に声をかけてみた。 「空、好きなのか?」 「……」 「…俺は雪が…雪が、好きで、大嫌いだ。もう、3年も前に死んだ、大好きだったやつを思い出す」 「っ、…し、く…しぃくん」 「そいつが空、好きだったのか?…っと、踏み込みすぎたか」 横を見れば、奏はツゥ…と涙を流していた。けれど何というか、痛々しい泣き方だ。 ただ涙を流しているだけ。ツラい、寂しいという感情は顔に出ておらず、見ている側がツラくなるような泣き方。 智春は自然と手を奏へと伸ばし、その涙を拭って頭を撫でていた。 [*前へ][次へ#] 【戻る】 |