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「あ…の、これ…」
「……寒いだろ、んな格好。本当に帰りたくなるまで着とけ」
だって、これはあなたが着てきたコートじゃないですか。
投げつけられて少しビックリしたけど、暖かなそれにもっとビックリした。
しかも、いてもいいって。
どうしてそんな言い方をするんだろうって、不思議に思った。
まるで、この人も部屋にいたくないからここに来てるんだ、みたいな…。
「いて…いいんです、か?」
「俺目当てじゃないなら、別に構わねぇよ」
「……ナルシスト?」
「は?ちげぇ…って、俺のこと知らないのか…それも珍しいな」
「あ、役員か何かでしたか?スイマセン、えと、ちょっと周りに疎くて…」
役員、だとしたら余計ここにいるわけにはいかないと思う。
知らないことを謝って、やっぱりコートを返して帰ろうとした。
でもその人は何も聞かず、ベンチの雪を落として深いため息をつきながら座った。
かっこいい人だなぁ…。
「……座んねぇの?」
「あっ、…あ、じゃあ…あと少しだけ…。でもコートはっ」
「お前の方が寒い格好してんだろ。貸すからもう黙っとけ」
「っ…ありがとう、ございます…」
「……ああ」
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