天沢北斗という男。
『……ねぇ、僕を…買って?』
平凡から一転、妖艶な雰囲気を身にまとい、ガキは男を誘うよう上目遣いで見上げたんだ。
少し開いた口からチロリと覗く赤い舌、挑発的な瞳。
──……ゾクリと、今まで感じたことのない "ナニか" が体を流れた。
「っ…!」
「……どうされました?北斗様」
「車をここへ回せ。…今すぐにだ」
「ぇ…あ、はい。畏まりました」
エロい、その言葉に尽きる。
エロくて妖艶で、男のくせにハンパない色気を醸し出している。
ホテルに入っていくアイツはすでに平凡に戻っていたが、あの顔で俺も誘われてみたいと思った。
……バカな、アイツは男なのに。ずっとそれを疎ましく思っていたのに…。
一緒に入っていった男が、憎く感じてしまった。
──キッ
「北斗様、どうされますか?」
「ここで少し待つ。もう少しアイツを見てみたい…」
「……珍しいですね…」
「うるさい。親父にはいうなよ」
「はい、もちろん分かっています」
それから車に乗り、アイツが出てくるのを待つことにした。
どれくらいで出てくるかなんて分からねぇのに…な。
だが予想外にも、ソイツは10分もしねぇうちに出てきた。
こりゃ…金だけとって逃げてきたのか。
……意外だ。
遊んでそうだと思ったのに。
「おい、…アイツに見つかんねぇようつけろ」
「……はい」
気になったら、追い求める。
それが俺であり、人間の性だろう?
走ってこのホテル街から抜け出したアイツは、ボロいアパートへ入っていった。
ここがアイツの家。こんなとこに人が住めるのかと、妙に感心した。
それから名前を確認し、徹底的に調べた。アイツのバイト先にも、話を聞きにいかせた。
そう、あとは……アイツと直接会うだけだ。待っていろ、ミヤサコカスミ。
* * *
『ハァハァ、な、名前は…?』
「っ…あ、の…!僕、お風呂にちゃんと入ってくれないと…そのっ」
『ぇ…ああ!よし、オジサンと入ろうかっ』
「いやぁ…先に入ってくれません…か?」
『っ!ま、待っててくれたまえっ!!』
あぁあーうっざい!
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!