戻った?日常。
バイト先のオバサンがさ、息子はもう使わないから…って高1の教科書をくれたんだ。
凄く助かる。
やっぱ高卒くらいの頭は持ってないと困るし。
「……普通なら、夏休みかぁ…」
家族でどこか出かけたり、友達と遊んだりするんだろうな。
それで休みの最後になって、課題をやってないと焦るんだ。
バカみたいにハシャいで大笑いして…羨ましいな。
「誰でもいいから…この地獄にクモの糸でも垂らしてくれないかなぁ…」
◆
「……218円のお返しになります。ありがとうございましたーっ」
『はは、今日も元気いいなー』
「笑顔が大事ですから。それに、ちょーっと寝てきたんで」
『本音はそっちか!あ、このPOP作りも頼むよ』
「はいっ」
ホームセンターのバイト、今日はレジだった。夕方は混んでいたものの、閉店間際になると人も少なくなってきて、店長に頼まれたことをやりながら接客をしていく。
あとは掃除して閉店作業して…で、そのあとは頑張らないとなぁ。
昨日の分も今日取り返さないと。
──ウィィン
「ぁ…いらっしゃいませー」
自動ドアの開く音と、視界の端に入ってきた人影に元気よく声をかける。
まぁそれに返事が返ってこないのはいつものこと。
だから僕もそこまでマジメにお客さんを見ないんだけど、動く気配がなくて手を止めて、そちらを振り返った。
ほら、レジに直接用がある人だっているし。
でも…そこにいた男を見て、体どころか時間まで止まった錯覚に陥った。
「な、……んで、あんたが…」
「よぉ、昨日ぶり…だな、香澄」
「っ…呼ばないで下さいっ!なんなんですか、からかいに来たんですか!?なら帰って下さいっ」
「酷いいいようだな。今は一応客だ」
周りの音がなくなり、まるでこの場所に僕とあの男、──昨日襲いかかってきた男の2人きりになった気分だ。
僕の裏を知ってる人が現れたことで、今のギリギリの生活がさらに壊されるんじゃないかって、怖くなった。
でも客というからには接客をしなければいけない。
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