お題10-折れるしかなくなる-
好きだとは言われなかった。
多分、それだけが、意固地に心を認められない理由・・・なんだと思う。
「危ないですよ。」
洞窟の中、当たり前のようにその手が伸び、支えられた。
「わ、ありがと。」
足元に転がっていた石を踏んでしまい、少々バランスを崩しかけた体は、その腕に支えられ、元のバランスを取り戻す。
何なんだろう。
この安心しきった空気は。
と、自分で自分に突っ込んでしまう。
「・・って、何?もう放してくれて大丈夫よ。」
「いえ、今気づいたんですが、プリンセス、不思議な香りがするんですね。」
「香り?何もつけてないわよ」
「そうですか?」
首を傾げ、元々至近距離にあった顔が近づく。
髪に触れるくらいの距離まできて、囁かれる。
「やっぱり、少し甘い匂いがしますよ。」
「ち、ちょっと、近くない?」
「近づかなきゃよくわからないじゃないですか。」
押し返した肩が、もう一度近づく。
ここが洞窟で良かった。
いや、良くない。
人目があろうと無かろうと、これは・・これ以上は・・
「いい加減離れてよ。カーティス」
「プリンセスがそう言うなら、仕方ありませんね。」
あっさり離れるその手。
そんな時ばかり従順なこの男は・・いつも私を振り回してばかりだ。
「・・・」
離れた手が寂しいなんて、バカなことを思う自分がいる。
「・・・そんな顔、してないでくださいよ。」
「?」
「また、触れたくなります。」
伸ばされた手が、髪を一房、すくい上げ、感触を確かめるように、指に絡める。
どんな顔を、自分はしてただろう。
もしかして、距離を縮められないのは、そっちも同じ?
一歩踏み出せば、触れてしまう距離。
いつもそこは越えないまま、意固地に心を認められない。
「触れたらいいじゃない?」
「いいんですか?」
「やってみればいいわ。」
見上げた顔は、少し躊躇いをみせる。
あなたは踏み出さない。
その躊躇いは、もしかしてやっぱり、私のせいかしら。
大人しく離れたカーティス。
私の言葉を、あなたは受け入れる。
あなたらしくもない歩み寄り。
私に合わせてくれるたくさんの事柄。
なら、私も一つ、諦めてしまおうか?
恋心一つ、手に入れるために。
少しだけ折れてみようか?
「・・っ!?」
心を決めて、踏み出してみる。
目の前のその胸に、腕を回す。
驚く顔が間近にある。
「近いんじゃ無かったんですか?」
硬直したままの手が、緊張を伝える。
何故か此方から触れると、固まるカーティス。
小さな笑いがこぼれてしまう。
「えぇ、近いわね。」
「離れなくて良いんですか?」
「離れたい?」
「僕はいつだって離れがたく思ってますよ。」
「そう」
なら偶には妥協してあげる。
絶対にあなたはその気持ちに名前を付けられないってわかってしまうから。
なら、私から折れるしか無いじゃない。
あなたが言わない言葉を私から上げよう。
「好きよ。」
「え・・・・・・本当・・に・・・?」
見開いた目が、闇の中で揺れる。
「えぇ、大好きよ。カーティスが」
硬直していた手が、ゆっくりと、背中に回される。
「嬉しいです!」
ぎゅぅっと、抱きしめられる。
今は肩に埋められて見えないが、一瞬見えたその顔が、えもいわれぬ笑みを浮かべていた。
だから、仕方がないわ。
愛を囁かないカーティス。
それに意固地になってどうするの?
夢と、仕様のないあなたの性格。
それらを諦めて、その恋に堕ちてみよう。
進展なんて望まなかった。
夢のためにあったはずの日々。
でも良いわ。
いつか、あなたに愛を教えてあげる。
だから、私が囁いた分の愛を、必ず返してもらうわ。
いつか。
きっと・・
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