絶対無敵の王女さま(カティアイ) 「プリンセス!」 「あれ、カーティス。・・何怒ってるの?」 「何って、貴女この間、僕のこと好きとかって言ってませんでしたっけ」 「言ったわね。」 「じゃあ、何で、僕以外の、他の男なんか誘うんですか!!」 カーティスの声がこだました。 奇しくも、そこは王宮の一角。 まぁ、周りに人が居ないとはいえ、みだりに叫んだりすれば何処の誰に聞かれてもおかしくは無い。 アイリーンは、カーティスのそんな奇行よりも、その台詞の内容に焦った。 「ちょ、何か人聞き悪い言い方しないでよ!」 誤解されるわと、続けるが、カーティスはアイリーンに剣呑な目を向けるだけ。 「でも、事実です。」 「だから、もっと他の言い様があるでしょう。」 「有りません。僕はそのままのことをそのままの形で言ったまでです。」 ぷいっとそっぽを向く。 まるで子供のようなそれに、このやろうと、悪態をつきたくなったが、アイリーンはとりあえず我慢した。 だって、機嫌が悪いのは自分じゃない。カーティスだ。 自分まで切れ始めたら誰が収集なんぞ付けてくれるのかと、彼女はそっと我慢したのだ。 「あそ、で、何でそんなに不機嫌なのよ」 カーティスの鼻をブニっと押す。 ぶたっ鼻とか、遊んでいる場合ではないと思うのだが、アイリーンはなんだか余裕ありげに笑っている。 それを見て更に不貞腐れたカーティスは、やめてください。と、鼻を押す手をさえぎる。 「だから、言ってるじゃないですか、僕が好きなら、僕以外の人と、外に行かないでください。」 「無理ね。」 「!!」 スッパリハッキリ切り捨てた。 その一言が痛恨の一撃だったらしく、カーティスはそのまま動きが止まってしまっている。 「だって、あの日はカーティスも仕事だったんでしょ?待ってたかったけど、私は午前中に済ませたいことが山積みだったし。」 「だから、他の男と行ったんですか?」 「うん。危ないし」 「別の意味で危険です!」 「や、それは無いでしょ。」 「有りますよ!!」 アイリーンは、この目の前の光景に、なんだか笑いたくなってきた。 ダメダメ、不謹慎だわと、抑えているが、カーティスが必死さを増せば増すほど、あほなくらい心配すればするほど、笑いがこみ上げてくるのだ。 「みんな、アイリーンを狙ってるって分かってます?貴女を落とそうとしてくる確立大なんですよ?」 「無理ね。」 「だから・・」 「だって、私、カーティスが好きなのよ?」 アイリーンが言葉をさえぎった。 とっても唐突で、そして、甘ったるい愛の言葉。 そして、その言葉に固まってしまったカーティスの鼻をちょこんとつついて、更に重ねる。 「よりにもよって、稀代の暗殺者、カーティス=ナイルが、よ?もう、他の誰かなんて、見ることなんてできないわ。あなた以上の人間なんてそう見つかんない。他の誰かなんて、物足りなくて仕方が無いわ。」 畳み掛けるような言葉に、最後の止めといわんばかりの、満面の笑みが向けられた。 「だから、他の男じゃ、私を落とせないわ。」 「・・・・」 むしろ、これほどまでにカーティス=ナイルを陥落してしまえる逸材の方が居ないだろう。 それほどまでに、カーティスの反応はすさまじく。 固まっていたと思ったら、ぽっとほほを赤く染めた。 きっと、他に誰かそれを見ていたら、この世の終わりか何かかと思ってしまうだろう程の、奇異な現象。 「ね、私、この期間の後もカーティスと居たいの。だから、あなたが忙しい日に、他の人を誘わないなんて約束できないわ。でも・・さびしくさせてごめんなさい?」 まっすぐ目を見てそれを言うと、そっと、カーティスを抱き寄せた。 まるで立場が逆のような気がするのだが、カーティスはそれで良いらしい。 満面の笑みを浮かべて、抱きしめてくれるその腕に体の力を抜いて身を預けた。 でっかい子供のような状態に見えるのは・・気のせいでは有るまい。 この、何処までも年齢と、それから性別的な立場が逆転しまくっている気がするカップルは、王宮において、ある種の怪奇スポットになりつつあったが、二人は全く気づかないまま。 というか、アイリーンはそんなこと全くお構いなしのまま、二人の世界だけは平和に回っているのだった。 誰よりもすごいのは、稀代の暗殺者を陥落した王女さま。 [*前へ][次へ#] [戻る] |