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届くはずもないとわかっていても(カティアイ)

どうして、貴女は、そうなのだろう。

問いかけは、形にもならない。
ただ、シナプス間の電気信号として、頭蓋骨の内側で巡るだけ。
悔しいくらいに、その一挙一動から目が離せなくなる。
どうでもよかったはずの存在が、特別になる瞬間なんて…。
反吐がでる。

いっそ、その元凶ともいえる存在を、殺してしまえたら、楽になるのだろうか。




「…っ!」

突然の出来事に、息が止まった。
別にこれといった何かがあったわけでもないのに、ナイフを突きつけられているのは、どういうわけだろう。

オアシスで、アイリーンとカーティスは休憩をしていた。
木陰に座り、一時の休息をとっていただけ。
それだけの時間だったのに、何故か、突きつけられてるナイフ。
スラリと余分な飾りのない、殺すための冷たい光が、喉に突きつけられていると思うと、ぞっとする。
払いのけてしまいたい。
なのに、喉元のナイフに、息ができなくなる。

「払いのけないんですか?プリンセス」
「……払いのけられる…ものなら」

笑みもない、何を考えているのかもわからない、その瞳に、必死に息継ぎをし、何とか静かに答えた。

「恐ろしいですか?」

僕が…
心でつぶやいたとしても、貴女に伝わるはずもないのに、声にしない言葉が脳内を巡る。
彼女は何と言うだろう。
もし、予想通りであったら…このまま殺してしまうだろう。
美しい貴女を。
そうしたら、自分だけの腕に閉じこめてしまえる。

「怖いわ。」

目の前の、その人の…

「ナイフがこんな至近距離にあるんだもの。当たり前…でしょう」

少し乱れた呼吸で、恐怖を感じているということは手に取るように感じられる。
けれど、その答えに、何だか不思議な気分になる。
その感覚に、ただ、瞳を覗き込むしかできない。

「……」
「な、何でそんな顔してんのよっ」

何の色も感じられなかった瞳が、見たことのない色に揺れている。
訳が分からない。
なぜ、そんな呆然とした顔をするのか。
ただ、答えただけだろうに。
その問いかけに。

「怖く…無いんですか…?」

ナイフでなく、僕が。
いつこの刃をその皮下に、潜り込ませるともわからないのに。

「はぁ?」

何を聞いているのか、この男は。
怖いと答えているだろう。
思わず、いつものようににらみつけてしまう。
あきれ半分、そしてもう半分は、訳の分からない言動に、もうバカバカしくなり、勢いで。

「怖いっていってるじゃない。早く、そのナイフしまってよ。」
「…はい。」

静かに、それをいつもの場所に隠す。
目の前の瞳がいぶかしげに、こちらを覗きこんでいる。
しかし、僕の方が不思議に思ってしまいますよ。
なぜ、貴女はそうなんですか。
『僕にとって』の、何かを心得ているように、必ずこうして死線を軽々と潜り抜けてしまう。
そして同時に、どこか、心のあらぬ場所に潜り込む。

「全く、何がしたかったのよ。」
「すみません。」


殺してしまえたら楽になる気がしてるのに。
こうして何度となく、小さな賭を貴女にしてるのに。
結局殺せないまま。
バカバカしいくらいに、殺せなくなっていく。

殺せたら楽になる。
貴女は自分だけのものになる。

でも、こうして仕掛けたことごとくが、綺麗にすり抜けられ、貴女に絡めとられていく。

まるで、罠のよう。

こうしてもっと、何もできなくなっていくのだろうか。
貴女に、手も出せないくらいはまっていくなんて、想像もつかなかった未来が、此処にある。

どうしたらここから抜け出せるのでしょう?
どうしたら・・・

振り向くことなどあり得ないとわかっているのに。
だからこそ、殺せてしまえたら楽になれるはずなのに。
どうか、期待させないで。
裏切らないで。

どうか・・・

願いなどかけたこともないのに。
なぜ、こんなにも、思いは、願いは、募るのでしょう。



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