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一緒に居られるのなら(カティアイ)

その笑顔は、何者にも代え難い・・・。


賭けに勝った私は、これで漸く・・・という晴れ晴れとした気持ちで部屋へと戻った。
25日間という長くも短い時間の中で、ずっと自分に科してきたそれを、やっと解くことが出来る。

半ば浮かれつつも部屋に戻り、支度をすると、いそいそと王宮から抜け出る。

決めていた事がある。
一つだけ、自分自身に科したルール。
最後までそれを破らずにいられたかはわからないけれど・・・。

足は自然と速くなる。
最近少しも迷わずに通えるようになったスラム街を通り抜けて、目的地へまっすぐと向かった。

「カーティス居る?」

ノックもそこそこに、来慣れた部屋を覗き込む。
稀代の暗殺者の部屋。
それにしては、特に何かというわけでもない場所。
その場所が、やけに閑散としているのは、どういうわけだろう。

「あれ?」

驚き、アイリーンは首をかしげた。
住人が居ないのは仕方が無い。
仕事もあるだろうし、漸く足枷から開放されたのだから、今まで出来なかった事をやっているのかもしれない。
けれど、何だか変だった。
棚やらそこかしこにあった物騒な私物が無くなっている。
つい先日までそこにあった、カーティスの部屋らしい、とても危険な私物たち。

「・・・・」

一歩踏み込むけれど、其処は、自分の知っている部屋ではない気がした。

「どうして・・・」

眉根を寄せて、一つ呟くと、身を翻し、街中を駆け抜ける。
スラム街の路地。
暗殺ギルドのメンバーとよく話し合いをしていた場所。
シャークの所。
思いつく限り城下を駆け抜ける。

日が落ち始めて漸く、アイリーンは私室へ戻っていった。

「どうして居ないのよ。」

悄然と呟く声に力は無い。
部屋に戻ると真っ先にベッドの上に倒れこんだ。
今朝までの喜びなど、欠片も残っていない。
せっかく頑張ったのに。
頑張ったそれを、真っ先に報告したかったのに。
なぜ、何処にも居ないのだろう。

「・・・・・・・」

別に何か約束があったわけじゃない。
あの期間が終われば、カーティスが自分に付き合う義務なんて無い。
でも、あの何もない部屋が、不安を駆り立てるのだ。
知らず、涙が溢れた。
止まらずに、流れ出る。

「やだ・・・」

この位で泣くなんて、恥ずかしい。
部屋に誰もいないのはわかっていても、こんなこと位で泣くなんてと、自分自身に言い聞かせるのに、溢れ出た涙は止まる事を知らないままだ。

「・・っ・・・」

これは自分に科したルール。
だから、カーティスがそれを知るはずも無いし、それを考慮する必要だって無い。
なのに泣くのはおかしいと、自分でもわかっているのに。
止まらないから、せめて、声だけは殺した。

そうして泣いて、いつの間にか眠っていたらしい。
気が付けば、辺りは真っ暗で、火の気も無い。
きっと誰かがランプの明かりを消してくれたのだろう。

「・・・疲れた・・・」

泣いて眠って、子供みたい。
自分の事をそう、嘲る事で、消沈している気持ちを支えなければまた泣いてしまいそうだった。

「そんなに疲れることがあったんですか?」
「・・・」

小さな独り言に、声がかかる。
それに、目を見開き、姿を探した。

「カーティス!」
「こんばんは。プリンセス」

その姿はすぐそこのテラスに見つかった。
優しげな風貌に、優しげな笑顔を浮かべる暗殺者。
今日ずっと捜し歩いたその人。
簡単に姿を見せたその人に、一気に怒りがこみ上げた。

「な・・何でこんなところに居るのよ!」

ずんずんとカーティスに近づいて怒鳴ってしまう。
それなのに、相手はさらりと返答をするのだ。

「何でって、会いに来たからですよ。」
「今日一日何処に居たのよ!探したのに!!」

ずっと探していたのに。
何処にも居なかったのに。

「え・・?」
「ずっと、探してたんだから」

何で、こんなに簡単に、こんなに近くに居るんだろう。
街中探して、見つからなかったくせに。

「僕も色々ありまして・・・あの・・・怒っているんですか?」
「何処か・・行くの?」

遠くへ・・・
部屋の様子を思い出して、一気に不安になる。
何処か行くのかもしれない。
その準備に追われていて、此処に来たのは、挨拶しにだったらどうしよう。

「いいえ。何で、そう思うんですか?」

キョトンとした顔になる。
心底不思議に思っている時のカーティスの顔だ。

「じゃあ、何で家に荷物が何もないのよ」
「証拠を残すのは、プロとして、あるまじき事ですから。」
「証拠?」
「僕、今日から此処に居ようと思うんですが、いいですか?プリンセス」
「は?」

首を傾げるばかりのカーティスの行動も、言動も、本日も絶好調だ。
わけが判らない。

「嫌と言っても、此処に居ますけど。」
「・・・・」
「プリンセス、聞いてます?」
「・・・・」
「ねぇ、ちゃんと聞いてくださいよ。」

頭がくらくらしてくる。
突然の出来事に面食らう。
けれど、それ以上に・・・。

「此処に居る気なの?」
「はい」
「ずっと?」
「そのつもりですよ。」
「・・・・・・嬉しい。」
「え?」

驚いたし、わけが判らないと思うけれど、それ以上に、嬉しくなる。
ずっと此処に居る。
一緒にいたいと思ってくれた。
それは、自分と同じように、カーティスも思ってくれていたと、思ってもいいのよね?

「一緒に居て。カーティス」
「・・・」

今度は、カーティスが面食らった顔をする番。

「今日、会ったら言おうってずっと探してたんだから。好きよ。カーティス」
「本当、ですか?」
「こんな嘘言って、どうするって言うのよ。」

唇を尖らせるが、目の前の青年の顔が、心底嬉しそうに笑った。

「嬉しいです!プリンセス」

がばっと抱きつかれ、鼓動が跳ねる。

「僕、絶対そんな事言って貰える可能性なんて、無いと思ってました。」
「・・・・・え?」

抱きしめながら言う台詞じゃない。

「じゃ、じゃあ何で、此処に居ようなんて・・・」
「これが済んだら、何が何でも…そう、貴女が望まなかったとしても、勝手にこうしてくっついていこうと思っていたので。」

あんまりな言いぐさだけど、カーティスが余りにも嬉しそうだから、まぁいいかと思ってしまう。
絆されてる…わね。
そう思うけれど。

「嬉しいです。プリンセス。僕も、愛しています。」

その一言と、贈られたキスで、そんな思いを微塵も残さず流してしまう。
絆されていてもいい。
一緒に居たいと思っているのは、あなただけじゃない。

「じゃあ、ずっと、一緒にいてね。絶対、逃がさないから」


ずっと、決めていたの。
あなたが一番好きで、でも、自信がなかったから。

だから、この賭けに勝ったら・・・

そう頑張ってきたの。
二度と離さない。
だから、二度と離さないで。




+++++++++++++

勝手にアイリーンは男前であると思いこんでいるしゅうです。
こう、プロポーズする時も、アイリーンが漢らしくズバっと言い。
他のほとんどの婚約者候補はうじうじしそうだなと。
実際、皆さん最後の一歩で二の足踏みすぎ。
と、そんな事を思っていたはずなのに、上手くかけない・・・この挫折感。



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あきゅろす。
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