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atonality 22

  Atonality
     狂恋歌





昔、他のどんな事も負けてるとは思ってなかった相手がいる。
勝つことは難しい。
でも、負けることは無い。
そう思っていた。
けれど、一個だけ・・そう、一個だけだ。
どうしたってかなわないものがあって、それだけが本当は勝ちたいたった一個だった。

それを、きっと誰も気づかないだろう。

俺の・・初恋だったそれに・・。



「ご苦労。下がっていろ。」
「はっ」

「あいつと話してくる。お前らはすぐ出れる準備しとけ。」
「うぃっす」


それはただのぼろ小屋だった。
民家も、町も、少々遠い森の途中。
似つかわしくない銀の長い髪を揺らす男と、たくましいガタイの男が顔を合わせている。
かび臭い室内に耐えられないと、銀髪の男の言葉で、中には入らず、二人、その扉の前付近で互いを見据えていた。

かなわないとは思わない。
けれど、唯一つだけ、かなえられないと知っているものを持つ相手。
そう思っているこの双方が、こうして一緒にいるのは、その唯一つの・・いや、たった一人のためでしかない。

「あいつは?」
「途中で寝たから、ついでに押し込んでおいた。鍵はこれだ。」

ガジャリと、思い金属音が幾重にも叩き合う。
金属の輪に通されている鍵は、10以上。
大ぶりであったり、小ぶりであったり、ちょっとした細工のされたものであったりと、一つにまとめるにはあまりにもばらばらなそれを、ためらうこともなく、銀髪の男からガタイのいい男は受け取った。
それは、部屋の鍵。
大切な人を守ると決めて、そして、その手段に閉じ込めるという選択に至った二人が用意した砦の中でも重要なその一室の為だけに着けた錠の鍵。
その重みを確かめるように少しガジャガジャと音をさせてから、男はそれを大切にしまった。

「怪我とか、してないだろうな。」

覗き込む相手の目は、ただ静か。

「どうだろうな。」
「・・てめ・・」
「確認する暇なんてなかったんだ。お前が見てやれ。俺は戻らないといけないからな。」
「・・・・わかったよ。」

けっと、舌打ちをしつつ、引き下がるのは、確かに急がなければならないとわかっているからだ。
自分ではうまく立ち回れないことも、こいつにはできる。
逆に、こいつには苦手なことも、自分には向いている事がある。
お互いに言わないそれは、少し、苦々しいものも含んでいるが、それを言ってしまったら負けだ。
最後は、彼女が笑ってくれなければ意味が無い。

「あぁ、そうだ、タイロン」
「あん?」
「あんまりあいつを甘やかすなよ。」
「なんだよそれ。」
「お前はあいつに甘すぎるんだよ。だから、それで油断して逃がすとか、やらかすなって言ってるんだよ。」
「あぁ?んな事、するわけねぇだろうが!スチュアートなめてんのか!!」
「ふん、そうか?ありえると思うがな。」
「んだとゴルァ!!」
「なんだ、自覚が無いのか?」

すさまじく凶悪な顔のタイロンのガンに、物怖じもせず、涼しげな顔でスチュアートはまっすぐそれを見返している。
口元にある笑みは、どこか小ばかにしているようで、すさまじく喧嘩を売っているようにしか見えない。
が、睨みあって数秒・・タイロンがまた舌打ちをして、二人は向き合うのをやめた。
知っている。
この喧嘩は終わらないのだ。
昔からそうだ。
そのうちあの少女が割り込むか、怒るか、泣くかするまで、ずっとずっと終わることが無かった。
が、今はあの少女はここにはいない。
自分たちがそうしたのだから。

「ま、どうせ言いくるめられるとわかってる。せいぜい急いでごみ掃除をするさ。」
「言ってろ。ま、お嬢の事は、絶対守るから、心配すんな。」
「そうだな。」

チラリと又お互いを見ると、さっさと踵を返して分かれ、別々の方向へと進路を取って遠ざかっていった。
挨拶だとか、激励だとか、そんな、虫唾の走るようなものは送らない。
送りあう中でもない。


ただ、目的が同じなだけ。


彼女の為の場所。

彼女の身の安全。


相手の行く道の先が、その目的からそれる事は決してありえない。
信じることなど絶対に無いが、それだけは心の奥底に刻まれて、理解していること。
だから・・

その役割を預けることができるのだ。










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