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atonality 25

  Atonality
     狂恋歌




「すさまじいな。」

夜の闇にまぎれて、それを眺める。
建物も、兵も、護りは堅かったはずなのに、どんどんと切り崩されていくそれを、二人はじっと見ていた。
それは、数の暴力だった。
少数精鋭で固めたその守り。
並大抵の事では崩れない位のそれらは、相手の数によって一気に切り崩されていった。
とはいえ、数だけが理由ではないのだが・・。

「あいつ、頭良かったんだな。」
「おや、気づかなかったんですか?」
「・・・・」
「ロベルトはあれで、経営手腕も一流です。勘やら、博打の腕やらだけじゃ、あれだけでかい賭博場の維持などできません。」

鋭い目が、行く末を見守っている。
夜の闇でも、その目が憎々しげに目の前の光景を見守っていることがわかるが、それがわかったところで、あまり・・というか、全然嬉しくないな。
できれば気づきたくない事でもある。

「あれは本当に、厄介な男ですよ。一見そうは見えないですがね。」

それは、お前も同じことがいえるだろうが。
シャークは心の中で呟いたが、それらの言葉は声に出さずに、カーティスを見るのをやめた。
最近、色々と突っ込んでおきたいことが増えるばかりだ。

「ポーカーだけじゃなく、チェスの類も抜群に強いんですよ。このぐらいの采配、できて当然ですね。」

全ての手札を理解し、把握し、その一手は、何通りもの先を見越したもの。
カーティスの持つ強さとは、別の素養。
面倒な面倒な男・・。
スチュアートやタイロンの手の中であれば、こっそりさらうことも可能だったが、ロベルトが全てを切り崩してしまったから、そうはいかなくなった。
せっかくお姫様に追いついたというのに。
がりがりと、シャークは頭をかいた。
で、どうするんだ?とは、聞きたくは無い。
このまま、ロベルトに合流するのも悪くは無い手ではある。
しかし、そろそろ国に帰らなくては。
病院の事もある、これ以上外でグダグダするべきではないだろうと考えを巡らせた所で、カーティスと目が合った。
しかも、とてつもなく良い笑顔のカーティスと、である。

「な・・なんだよ。」
「いえ、シャークさん、此処まで来てまさか、降りたりしませんよねぇ?」

ふふふと笑う暗殺者に、シャークは薄ら寒いものを感じた。
一体何を考えてこんな顔で笑うのか・・世界中の人間に問いただして回りたいところだ。
絶対いいことじゃない。
ひくつく顔の筋肉を総動員して、何とか平静な顔を保ちつつ、シャークはその顔を眺めた。
恐ろしく面倒な暗殺者。
本当に、どうしてこの男に協力なんてしてしまったのか。
最初から最後まで、自分の行動に心底駄目出しをしてやりたいと、苦々しく一人言葉を飲み込んでおく。

「・・・」
「そんなに警戒しないでくださいよ。ただ、シャークさんには、情報を集めていただきたいだけなんですって。」
「王宮か?」
「もちろん。今、プリンセスと一緒にいられないのは、根本的に、彼女を殺そうとか、害そうとかするやつがいるからいけないんだと思うんですよ。」
「まぁ・・そうだが。」
「だからですね、そんなのは、全部、壊してしまえばいいかなと思うんですよ。」

ね?いい案でしょうと、輝かんばかりの笑みを浮かべる顔が、さっきよりもっともっと嫌だ。
額を押さえながら、シャークはそれに返す言葉を考え込んでしまったが、何も思い浮かばなかった。
此処よりさらに陰惨な血の海を作って、彼女が喜ぶはずも無いのに。
この男になんと言えばそれが伝わるのか・・教えて欲しいと思いつつ、最近少し理解してしまっているのは、自分が分からないこの男の生態を、他の人間が理解できようはずも無いということだった。
この旅の中、何度分かるやつ来いと願っただろうか。
届かぬ願いと知りつつも、抱かずにはいられない言葉を何度も何度も重ねつつ、諦めを覚え始めた。
そんなことはともかく、視線をそらして今はただ、憧れたお姫様の行く先を慮る。
彼女の為と思うのであれば、きっと、此処で死ぬとしても・・


自分だけにしかできないことが、今、此処に存在していると知っている。









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