[携帯モード] [URL送信]
atonality 24

  Atonality
     狂恋歌



そっと息を潜めて成り行きを見守ってどのくらいかしら・・?
全部壊し終わったみたいで、突然音が無くなって数拍、ガチャリと、扉が開く音。
ゆっくり開いて、きょろきょろと中を見渡す気配。
コツリ、一歩足音がした。
それら全てを、聴覚と、いわゆる第六感?とでも言うのかしら、それで感じながら、じっと、息を殺す。

「あっれ〜?プリンセスいませんか?」
「・・・・・」
「おかしいなぁ。別の部屋??」

って、何でそんなに緊張感が無いの!この声の主は!!
かろうじて気配をもらすことはしなかったけど、すごい脱力して、思わず床に突っ伏してしまった。
なんなの?これ
どう対応しろと!?

「あ〜・・いるわよ。ロベルト」

とりあえず、すっくと立ち上がって、消していた気配を戻す。
手元にあったシーツは床にほっぽったまま、片手は枕を持っておく。

「わっ。あ、プリンセス!良かったですよ。全然気配しないし、見えないしで、別の部屋かと思っちゃいました。」
「そういえば、暗闇は見えないんだっけ?」
「真っ暗じゃ、ちょっと難ありくらいですかね。これでも普通の人よりは見えてるんですよ。」

にっこにっこと笑っているその顔に、何から聞くべきかを思案する。

「半分ライルの命令で、助けに来ましたよ。俺のプリンセス」
「・・・俺のって何よ」
「いいじゃないですか。さて、どうしましょう?」
「や、どうって、どうするつもりで来たのよ。」
「助ける為に・・って、此処から連れ出す意味じゃないっすよ?プリンセスのしたいことを、したいように、実現させる手伝いをするためにきました。って、言えばわかりやすいですよね?」

ニコニコ笑っている。
言ってることはわかったけど・・でも、理解、できない・・・!
どうしよう。
すごく、ある意味困るわね。この相手
でも、ライル先生の命令とかっていってたし、うんでも。

「あ、混乱してますね。じゃ、これ見れば納得してくれますかね。」

なんだかんだと目ざとい男だわ。
こっちがてんぱってるのをすぐ察知してくれても、別に嬉しくないわよー!
でも、差し出されたものをみて、ちょっとそれが晴れた。
筆跡はライル先生。
手紙の中身も見せてくれるらしいので、そっと手にとって、ざっとそれを流し読んだ。
此処最近のやり取りと、スチュアートとタイロンの事。
二人が駆け回ってくれてるのがすぐに読み取れた。
けど・・

「・・ライル先生・・何でこんなことまで調べられるわけ・・?」

自然と眉根がよってしまう。
だって、あれ、だたの家庭教師なのに。

「何でって、あの人、裏では有名っすよ?」
「うら?」
「裏ですよ。まさか、ギルカタールが普通の国家なはず、無いですから。」

やっぱり笑ってる。
今まで気にしたこと無かったけど、あれ、裏って、先生・・どういうこと・・?

「あ、でも、ライルはちゃんとプリンセスの味方っすよ。プリンセスの望むものを、あの人も望んでる。俺も、プリンセスには自由にやって欲しいって思うんで・・なので、これからどうします?」

理由は自分でもわからないけれど、すとんと、腹が決まった。
国に戻る。
スチュアートが来た時に決めた事だもの。
私は、曲げるつもりは無い。
きっと、此処で守られていればあの二人の事だもの、安全で、私は何もしなくていい。
でも・・でもね。

「でも、そんな風にしていいのかしら?ロベルト」
「なにがっすか?」
「あんたの憧れてる物語みたいに、華麗に掻っ攫って、守り抜いて、お姫様とめでたしめでたしってなれるチャンスじゃない?」

ニヤリと笑うと、ロベルトはいたずらっ子みたいな顔で笑い返してきた。

「そんなの、ハッピーエンドにならないでしょう?」
「そうかしら?」
「だって、プリンセスは、そんなことじゃ恋に落ちたりしないですから。」

そうなのよ。
私は、物語のお姫様のようには行かないのよね。
こんなことで恋には落ちないの。
さ、お手をどうぞと笑う賭博王。
その言葉は、真理だわと、私も笑った。


国に帰ろうか。
意地悪な継母や、魔法使いじゃなくて、欲と策謀の渦巻く家臣が潜む、その巣窟へ。
大丈夫。
私は盗賊王の娘だもの。
真っ暗な闇より、もっと濃くて黒い闇を持つ魂なのよ。

「じゃ、国に戻るわ。できれば情報と、安全なルート、あとは武器を頂戴。」
「はい。望みのままに。俺のプリンセス」

又そのせりふ。
なんだかむず痒いわね。
その真意がわからないまま、激しい戦闘音の聞こえる建物を突っ切る。
守る側も、攻める側も、すごいことになっている。
赤くて、簡単に全てが沈んでしまえる世界。
私の勝手が、引き起こした。

「ロベルト、これ以上被害が出ないように、さっさと撤退させなさい。追っ手は私がさばくから。」
「や、それじゃ、俺が来た意味ないじゃないっすか。」
「あるわよ。」

満面の笑みで、豪語しよう。
ここにいて、私の手を引いている。
それだけで意味があるわ。
だから、もう、この光景はお開きにするべき。
強い私の語調に、夜の闇の中、意を決したようにロベルトが笛を取り出し、吹いた。
高い音とともに、彼の私兵が動きを変える。
戦場の気配が変わっていくのを感じながら、私はただ、微笑んだ。

選んでいくわ。
私の道。
私の運命。
私だけが作れる未来。

だからどうか、ただ守られていろと言わないで。



この笑みがどんな意味を持っていたとしても。。










[*前へ][次へ#]

24/26ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!