[通常モード] [URL送信]
atonality 21

  Atonality
     狂恋歌



目が覚めて、ふと・・違和感。
何の揺れもなく、硬い床でもなく、とても心地よいベッドの感触。
そう、心地よいはずの・・・それへの、違和感。
いつの間にか寝ていたらしい。
それはいい。
そんなことは良くて、よく見知らぬ天井の部屋はいったいどこだろう。
覚醒しきらない頭でぼんやりと考えながら、視界をめぐらせる。
壁も天井も何の変哲もないように見えるけど、違う。
どこにも足がかりになるものがない。
凹凸のないつくり。
柄でごまかされているけど、すぐわかる。
天井が高い。
このくらい、王宮では当たり前だったけど、普通の家などではそうじゃないということを、今の私は知っている。
窓は、明り取り用の天井付近の小さなものしかない。
普通に考えて、それって・・・

「閉じ込められてる・・?」

結論を、口に出したら、てんぱるより何より、あぁ、そうかもってコトリと胸にその言葉がはまって、納得。
理由は不明。
考えるだけ無駄だと思うの。
だって、やったのがスチュアートとタイロン・・。
国の事を思ってる二人が、私を閉じ込める訳。
私の幼馴染が、私を閉じ込める訳。
いくつも理由なんて考え付くけど、いくつも出るって事は、何も思い至らないのと一緒。

小さな窓からさす光を睨みながら、体のチェックをする。
武器はない。
服装はそのまま。
薬はちょっとは使われてる気がする。
口の中が変・・。
でも、ほとんど自分で眠り込んだようなものだから、関係ないわね。
念のためくらいのそれ。
もぞりと起き出すと、少し頭がくらりとした。
それを振り切って、扉の前に立ち、ノブや鍵をゆっくりと検分し始めてみた。
そこには鍵穴なんてものはなくて、何の変哲もないドアノブに見える。

「これはまた・・面倒かも・・?」

ぐるんと捻れば、抵抗なく動くノブ。
いえ、逆にこれって・・どこまでも同じ方向に捻れるっぽいから・・こっちからあかないタイプの典型ということよねと、頭の中で整理する。
あぁ、面倒・・面倒だわ・・。
あけてくれるのを待って、殴り倒して逃走とか、あの二人にかなうはずないし。
武器ないし。
でも、武器・・あっても私には殴れないかもねぇ。
そう思うと、とりあえず、もっかい寝たくなった。
なんだか面倒。
それに、どうせ向こうから来るだろうし・・。

今それほど急ぐ時でもなく。
かといって、悠長にしてられるわけでもないから。
とりあえず、ご飯の時間くらいにはちゃんときなさいよねと、心の中でつぶやいて、今抜け出たばかりの寝具にもう一度もぐりこんだ。
目が覚めたら・・いったい誰が、扉を開けてくるのかしら。

誰かを待って眠りに入るなんて、ちょっと乙女チック過ぎるわね・・

そう、頭の片隅で呟きながら、意識はあっという間にまた眠りの中に落ちていった。

寝れる時は寝る。
冒険者には必須のスキルで、なかなか実践には至らないそれ。
体に染み付く、国で盗賊王の娘として育てられたスキルは、国を出た後も健在で。
むしろ、それが国を出た私の行く先々で、重要な能力として役に立っている。

先生が教えてくれた、たくさんの事。
今もまだ、此処にある。
そして、ずっと、私は私であることをやめられないんだって教え続けるの。









[*前へ][次へ#]

21/26ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!