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atonality 17
この手をとって
国へ戻ろう
貴方は高貴なる
囚われ人

全ては民意に
従うべき意思
全ては国益に
沿うべき挙動
全ては国の礎と
いつかは成るべきその全て

しかし本当に貴女は
それでいいの・・?



  Atonality
     狂恋歌



冷めた気持ちと、冷めた目で、アイリーンは幼馴染に視線を注いでいた。
呆れてものも言えないと、言いたいところだが、ため息交じりに一言、色々な気持を込めた言葉が転がり出た。

「・・マイセンに?」

もやっとした気持ちをまだ引きずっているアイリーンは、ただ、呆れたように言い、眉根を寄せた。
ありえないというか、あんた馬鹿?何考えてるの?どこに目をつけたらそうなるのよ、位は言っていそうな色々を、言外に示され、スチュアートは次の言葉が捜せない。

「ふっ、まぁ、この俺様と、プリンセスの仲睦まじい姿といったら、世界がしっとしちまうくらいだからなっ」

しかし、そんなアイリーンの空気を察するわけもない男、マイセン。
その口からは、ふっふっふ・・と、怪しい笑いが漏れる。
アイリーンはガタガタと椅子を移動させ距離をあけつつ、ないないと、首を振った。
ありえないありえない
だが、何故か異様なやきもち焼きなスチュアートは、ぎっとアイリーンを見据えた。
だからなんでこっちなのよ・・と、内心呟きながら、ため息をつく。
一向に話が進まない。

「で、迎えに来たって事は、ギルカタールに戻ればいいのかしら?」

無理やりに話は戻しておく。
最近空気を読むのを諦めることが増えてきたプリンセス。
一体誰の影響だろう・・と、本人すらも首をひねる。
しかし、その内心をスチュアートが知るはずもない。
力強く一つ、頷いて、口を開く。

「ああ、準備もろもろはタイロンのやつに任せてある。とりあえず、ある程度安全な策を考えてきた。行けるならすぐ出ろ。」
「そっ。なら、行きましょうか。」

ずいっと、スチュアートに手を差し出す。
こういう時くらい、エスコートするのが筋と言うものだ。

「決心は固そうだなぁ。プリンセス」
「決心って程じゃないわよ。」

それは、アイリーンにとっては、当たり前過ぎる行動だった。
国のため、民のため、民意を汲み取り、大多数の事を考える。
王位に一番近い人。
そこにいるのは、個人ではない考えを持つ、存在なのだから、仕方がない。

「ま・・・あれだ。行くなら止めないけど、絶対の信用なんて、しちゃだめだぜ。」
「は?」
「例えその、幼馴染くんでもな。」

ニヤリ
と、意味深に笑うマイセン。
その目は笑っていない。
ただ、その意図を注意深く見極めようとする、冷静な目。

「信用・・ね・・。」

曖昧な反応を返すだけに留めておいた。
しているともいないとも言い難いそれ。
確かに、自分は身内に甘い。
それは、ギルカタール全体に言える事。
その身内の範囲に、この相手を入れていることは確かだけれど・・。
「信用」と、言われると、首をひねる思いがある。
こんなところで、口になんて出さないけれど。
でも、今はその手を取るより他ない。
私は、あの国の、王族なのだからと。
マイセンの言葉を置き去りに、その宿を去った。





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